Online よろず相談所

アラ50の医師が ゆるい説明しています

人工呼吸の考え方2 PEEP

二酸化炭素編へつづくはずだったのに
PEEPの説明です。
 
世の中そんなもんです。
PEEPって何?という質問をいただいたので予定変更しました。
 
 
ピープピープいってるPEEPとは
Positive         陽圧
End               週末
Expiratory     呼気
Pressure        圧
のことで呼気終末期圧、あるいはそういう呼吸管理法のことですね。
 
地球上でモノが上から下へ落ちてくるのは
重力という”圧”が地球の中心方向にかかっているからです。
 
圧力の強いほうから弱いほうへ。
空気の世界も人間社会と一緒なんですよ。
 
そういうわけで、
息を吸うというのは、筋肉で横隔膜を引っ張り下げ、肺の中を陰圧にすることで、
体の外の大気圧 > 肺の中の気圧
となるので空気が取り込まれていきます。
 
息を吐くときは、横隔膜の張力を使って肺を押し込み
体の外の大気圧 < 肺の中の気圧
となるので、空気が吐き出されていきます。
 
この息を吐くときの、空気を全部だしきったときの
肺の中の気圧(気道内圧)をPEEPといいます。
 
 
PEEPを高い値に設定するとどうなるでしょう?
手術室の麻酔器だとPEEP 70mmHgまで出せる構造ですが
さすがにこれはヤバいです。
まず、空気の出口が蓋されている状態なので、息がはけないです。くるしいです。
肺にとって膨らむことはいいことですが、これはやりすぎ。
 
呼吸以外にも困ったことがおきます。血圧が下がりすぎるのです。
心臓から全身に送り出された血液が全身を回って、最終的に心臓に帰ってくることはご存知でしょう。そして、全身から血液が戻ってくるのも、戻ってくる場所である心臓の右心房が最も低圧だからです。中心静脈圧と言いますが、その圧はだいたい10mmHg前後です。ちなみに血圧は上が120mmHgくらい。下の血圧が70mmHgくらいが理想です。いつかこのネタを書く日もあるでしょう。
これに軌道内圧 70mmHgをかけたら、まわりまわって中心静脈にも高い圧がかかってしまうので、血液が全身から戻ってこれません。一番下にあるから水たまりができるのに、それが高い位置に移動したら水たまりにならないですよね。血液が戻ってこないと、心臓は元気でも送り出す血液が戻ってこないので、血圧は下がり・・・放置したら
 
”死ぬんDeath!”
 
ARDSの時はやむをえずPEEP 20mmHg以上かけることもありますが、それはそういう特殊な状況のみです。
ARDSガイドライン2016年によるとPEEP 30mmHg以下が望ましいそうです。
 
 
ちなみに手術室のPEEP70mmHg機能は患者さんを死なせるためじゃなくて別の用途があるから付いている構造です。
 
というわけで、かけすぎのPEEPは呼吸が吐き出せなくて苦しい・つらい・場合によっては”死ぬんDeath"であることは知っててください。余計なレポート書きたくないものです。
 
さて、かけすぎ危険のPEEPですが0だといいの?
という話。PEEP0mmHgというのは、口を全開にして息を吐いているような状態です。やってみてください。意外につらいでしょ。
肺というは柔らかい、すぐにしぼんでしまいがちな臓器で、気道内圧0mmHgだと、すぐしぼんでしまい、痰が絡みやすく、肺炎になりやすくなります。特に肺気腫の患者さんで顕著です。
 
肺気腫の患者さんは肺の末梢がもろいので、肺が虚脱(つぶれる)して無気肺になりやすいです。
また、肺の末端、肺胞より、その手前の細い気管支のほうがつぶれやすくなっているので、呼気で息を出そうとしたら、通路が先につぶれてしまい、十分空気が吐き出せなくて苦しいという症状がでます。
 
最低限の圧力をかけて、空気吐ききっても細気管支や肺胞がつぶれないだけの圧力はかけ続けておこう、というのがPEEPです。
ヘビースモーカーの肺気腫のおじいさんの”口すぼめ呼吸”も口を小さく開けPEEPを維持したままゆっくり空気を吐き出すという、体が自然と覚えた呼吸法です。口すぼめで画像検索してみてください。
 
PEEPは5mmHg前後をかけるのが一般的で、その理由は、健康人の呼吸時にだいたい5mmHgのPEEPがかかっているからです。たいした抵抗感ないし、無気肺にもなりにくい。
肺水腫とかの病態、ARDS等に悪化するときはある程度強めのPEEPをかけないと肺と命のピンチ。
人工呼吸している患者さんの酸素化が悪い時はPEEPを高く設定したほうがいいのは前に書いた通りです。
 
 
次回
二酸化炭素編へ続く
 
かもしれない。