Online よろず相談所

アラ50の医師が ゆるい説明しています

動脈瘤と静脈瘤 2

前回動脈瘤と静脈瘤タイトルなのに、静脈瘤がないとお叱りを受けました。
よって今回は静脈瘤の話です。
 
静脈瘤とは静脈に出来た瘤、コブのことです。
 
みなさん、血液検査したことありますよね。
あの針は静脈に挿しています。
採血おわって数秒押さえていれば出血は止まるくらいです。静脈の病気でおおごとになることはほとんどありません。
話がそれますが、採血したり予防接種したりしたら、当日は風呂入れないとかは過去の話です。針穴からバイキンはいるとか、ほとんどありえません。
 
静脈系にトラブルが少ない理由は、圧力が低いからです。
動脈系とちがって静脈系は圧力が低いです。静脈にかかる圧は動脈の1/10程度もありません。
その代わり、静脈は高圧に対する耐性がないので、血液の渋滞が起きたりして静脈圧が高くなるとすぐに静脈瘤ができます。
 
 
静脈瘤といえば
食道静脈瘤
が有名です。
 
<食道静脈瘤>
食道静脈瘤は食道と胃の接合部に静脈瘤ができる病気ですが、
これは肝臓の病気、肝硬変によっておきるものです。
アルコール性肝炎などにより肝硬変がおき、肝臓内を静脈血が通過しにくくなるため、迂回路として食道付近の静脈に血流が集まります。すると血液が渋滞を起こし圧力が高まり、血管がモコモコして静脈瘤ができてしまうのです。ここで硬いものを食べたりすると食道静脈瘤にひっかかって出血したりします。こうなると血が止まらなくなって大変なのですが、それはそもそも肝臓の病気のせいです。食道静脈瘤が出来ているレベルの人は、すでになにかしら肝臓の専門医にかかっていると思うので、そちらで話を聞いてみてください。健康診断で肝機能異常で引っかからなかった人や、検査値が以上でも「たいしたことない」と医者に告げられたような人が食道静脈瘤になるはずないです。肝臓の病気については需要があったらそのうち・・・。
 
 
<下肢静脈瘤のでき方>
多くの人にとって静脈瘤と行ったら下肢静脈瘤でしょう。
足にできる、紫のモコモコです。
 
クイズです。
血液は心臓から全身に送られ、そしてまた心臓に戻ってきます。
この時、頭に行った血液は重力で心臓にもどってくると容易に想像できますが、
じゃぁ足に送られた血液はどうやって心臓に戻ってくるのでしょう?
 
時間は5行間
ちっ
ちっ
ちっ
ちっ
ちっ
はい行間切れ
 
普通そんなこと考える人はいません。知らないのが普通です。
足の静脈は筋肉の間に挟まっています。歩いたりして、筋肉が収縮すると、静脈が潰され、そこにあった血液がいくらか心臓の方へ登っていきます。足の筋肉が緩むと、血液がおちてきてしまうので、それでは困るからと、静脈には心臓同様逆流防止弁がついています。
これのおかげで足の血液は歩くたびにちょっとずつ心臓へ戻っていくのです。
 
ここで、立ち仕事の人。料理人や学校の先生などの立ち仕事の人たちは、立ったままでたいへんな仕事をなさってますが、"歩く"という作業がないので、"血液を心臓に戻すメカニズム"が機能せず、なかなか心臓まで血液が登っていけません。それでも次から次へと心臓から足に血液は送られてくるので、足の静脈は血液で渋滞、パンパンになります。圧力がかかった静脈は徐々に拡張します。静脈の逆流防止弁のところが拡張すると、逆流防止弁の機能が壊れてしまい増す。逆流防止弁が機能しないとこのあとせっせと歩いても、血液がなかなか心臓にもどってくれません。
立った状態では常に下肢静脈の圧が高くなるので、血管はモコモコ。静脈瘤のもとが完成します。あとは10年20年30年かけてゆっくり大きく目立つようになります。
 
立ち仕事の他に、妊娠でも静脈瘤の原因が作られることがあります。
妊娠末期になると子宮が大きく重くなってきます。仰向けに寝たとき、その子宮がお腹のなかの静脈を圧迫してしまい、血流がそこで滞ってしまいます。
すると、下肢の静脈圧が高まり、逆流防止弁がこわれ・・・出産後10年20年かけてゆっくりと目立つ静脈瘤が出てくるのです。
 
 
<静脈瘤の特徴・症状>
最初はクモの巣状とよばれる、細い細かい静脈瘤から始まって、徐々に太くモコモコが出てきます。
見た目はちょっと怖い病気っぽいですが、所詮血管が膨れただけです。
血液が溜まっているだけでの状態なので、特に治療は不要です。モコモコしていても、血液が循環している状態なら、体にはなんら悪影響無いからです。
この程度の静脈瘤だと治しにくいという側面もありますが。
 
 
たまに、静脈瘤のでき方で、同じ場所にずっと血液がとどまってしまうことがあり、血栓ができて押すと痛かったり、皮膚炎が出たりします。
皮膚炎は静脈瘤の部分が痒いから始まって、ボリボリかいていると皮膚が褐色になり、これを放置すると皮膚がただれてきます。皮膚が褐色になるくらいには手術を勧めます。
逆に言うと、静脈瘤の皮膚が褐色になるくらいまでは放置でいいです。静脈瘤の人がみなこうなるわけではないですし。
 
静脈に血栓ができたら肺に飛んでって危険・・・なのは深部静脈血栓症です。これは足全体が左右差を持って非常にぶっとくなります。表在静脈のトラブルである下肢静脈瘤と肺梗塞は基本的に関係ないでしょう。深部静脈血栓症はまた別の機会に。
 
その他静脈瘤の症状として
足がむくむ、ふくらはぎがだるい、足がつる、不快感などがあります。
ただ、関節の痛みだったり筋肉疲労だったりして、静脈瘤が原因じゃないこともあり、静脈瘤手術をしても治らない可能性があることは知っておいたほうがいいでしょう。
 
<手術適応>
皮膚炎がでたなら、医者の方から手術を強く勧められると思います。
逆に皮膚炎などの症状がなければ別に手術しなくても大丈夫です。静脈瘤として悪化はしますが、命をもっていかれたり、足を切断するはめにはならないです。低圧の静脈ですから。
下肢の静脈瘤がやぶけて出血したって、それだけです。動脈瘤破裂のようにはなりません。
「こんなモコモコじゃ、スカート履けないわぁ」等の美容目的は手術の適応になります。
「わしゃ見た目なんかどうでもいいんじゃい」という人は、どんなに立派な静脈瘤でも、皮膚炎が出ない限りは無理して手術する必要無いです。昔そうとう大きな静脈瘤をもったままマラソンに励むかたにあったこともあります。アマチュアとしていいタイムを出していたそうです。
 
 
<治療>
静脈瘤は壊れた逆流防止弁のせいで徐々に目立つようになっていきます。
ゆえに、その壊れた逆流防止弁のある静脈に血液が流れなくなればいいのです。
手術しないでなんとかする方法、それは弾性ストッキング(圧着靴下)を履くことです。このストッキングはパンティストッキング型、ハイソックス型ありますが、大事なことは足先から太もも付け根までしめつけて、静脈を潰してしまうことです。
皮膚炎がでてしまった人でも、まずは弾性ストッキングをはいて1-2ヶ月様子をみて、きれいになってから手術をします。それくらい弾性ストッキングは有効です。
手術いらずで素晴らしい方法ですが・・・脱いだらもとに戻ります。履きにくい、夏はムレるが難点です。半年くらいで弾性ストッキングはタンスの肥やしになる傾向にあります。
 
外科的治療としては
従来のメスを使う手術と
最近のレーザーを使う手術があります。
太もものだめな血管を引っこ抜く外科手術と、同じ血管をレーザーで焼き切るレーザー治療です。
外科手術は麻酔をきっちり使うことがおおく入院が必要でしょう。レーザーは局所麻酔だけでやることがおおく、日帰りでやる施設が多いです。
両方とも根治できます。どっちが優秀というものではないので、両者をよく調べて気に入ったほうで治療すればよいと思います。効果の高いレーザー治療は現時点では自由診療で、20万円とか高かったりするので気をつけて。
 
その他、静脈瘤に薬を注射して潰す硬化療法というものもあります。こちらは外来でできる手軽な治療ですが、根治術ではないので時間をかけて再発します。血管から薬が漏れると激痛などのトラブルがあるのも気をつけてください。
 
 
おだいじに~