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アラ50の医師が ゆるい説明しています

ECMOでの生存率を高めるために

コロナに限らず、肺機能が悪化し酸素化が悪くなると
まずは酸素投与
足りなければ人工呼吸
それでも駄目ならECMO
なんて流れになっています。
 
テレビとかだとECMOが最後の切り札、ECMOがあればコロナに克服できるみたいな報道されてますが、コロナ重症患者でECMO設置された人の実際の生存率は50-60%と言われています。
 
ECMOが取り付けられるということは
集中治療室のベッドに寝かされ、
人工呼吸器が取り付けられ、
いろいろな太い点滴がなされた上に、
ECMO用の直径7-9mmの管を首と足の付け根に刺され、
この状態で数週間から数ヶ月、肺炎が改善するまで絶対安静です。
他に手段がないから確かにECMOは切り札となりますが、実際は分の悪い勝負です。苦しく辛い治療です。
 
その間、肺がもとに戻る気配がなかったり、
ECMOの過酷な条件に耐えられなかったり、
ECMOが体に及ぼす悪影響(合併症)がおき、例えば脳出血など起きて脳死みたいな状態になったらそこで試合終了です。
 
ECMOは台数が少ないこと
あまりにも複雑で高度であり、集中治療室を構える病院しか常備しておらず、またこれを取り扱えるスタッフが少ないこと
機材が高価であり、取り付けた初日だけで400万円以上と医療費が相当かかること
コロナ重傷者が一気に増えたら日本の医療は間違えなく破綻してしまいます。
なによりECMO患者さん本人の苦痛は想像を絶するものです。
 
重症化するのはごく少数の人たちであり、過剰に心配しなくていいとは思いますが、手洗い・水分補給・禁三密して予防しましょう。
 
 
 
今回はECMOを担当する若手のスタッフさんにECMOとは何か?管理のポイントの説明を依頼されたので書いていきます。
明らかに一般向けではないので、一般の方はご遠慮ください。
ECMOってこんなに危険で難しくて大変なんだ、医療スタッフって相当頑張ってるんだ
だけでも感じてもらったら幸いです。
 
 
 
もくじ
<ECMOってなに?>
<ECMOの種類>
<ECMOの適応・不適応>
<ECMOの構造>
<ECMOの管理>
<ECMOから離脱するとき>
<ECMOの合併症とギブアップするとき>
<ECMOその他>
 
 
 
 
 
<ECMOってなに?>
ECMOって何?
という人は先のECMOの話を読んでみてください。
 
 
ECMOとはExtraCorporeal Membrane Oxygenationの略で、直訳したら「体外の膜で酸素化」でしょうか。人工心肺の事です。
脱血管を挿入してカテーテルの先端を右房に起きます。全身の血液が戻ってくるこの右房からカテーテル越しに血液を引き抜き
遠心ポンプで圧力をかけ
膜型人工肺で酸素化し
血液を体内に戻します。
 
 
 
<ECMOの種類>
このとき、静脈に返血するものをVV ECMOとよび、肺機能が弱っているときに使用します。
動脈に返血するものをVA ECMOとよびます。心機能が弱っているときに使用します。VA ECMOはPCPS(Percutaneous caidiopulmonary support)とも呼ばれます。
VはVein (静脈)、AはArtery(動脈)のことで
アクセスとしてカテーテルは鼠径動脈・静脈、内頸静脈が使用されることが多いです。
 
 
習慣的に
VV ECMOをECMO
VA ECMOをPCPS
と呼ばれるので、以後そう書きます。
 
何れにせよ機能が落ちてしまった臓器が復活するまでの命のつなぎです。
切り札ではありません。単なる延命です。
そもそも心臓や肺を良くする治療ではありません。
特にPCPSは心臓にはむしろ負担だし、体外循環使用時間が長くなればなるほど炎症物質が放出され全身のむくみや貧血などダメージが蓄積して行きます。
 
医療者としては、ECMOを取り付けるということは、単なる延命のイメージが実際あります。コロナ感染にECMOを取り付けて50-60%の生存率があるそうですが、これは素晴らしく高い生存率だと思います。
 
 
今回は主にECMOを中心に書いていきます。
PCPSはECMOの対比程度に書きます。詳しくは別の機会に。
 
 
<ECMOの適応・不適応>
ECMOの適応は呼吸が不十分な時です。血液ガスで判断します。
Murray Scoreという
1. 胸部レントゲン所見    (浸潤影の程度)
2. PaO2/FiO2 スコア        (酸素化に必要な酸素濃度の批評)
3. PEEP スコア                  ( 酸素化に必要な呼気終末期圧の評価)                
4. 肺コンプライアンス    (肺の柔らかさ)
の4項目それぞれ0~4の5段階で評価して合計が3以上ならECMOの適応があります。
 
具体的なイメージとしては
人工呼吸器でARDS(超重症肺炎)用の超高圧呼吸管理してても
・酸素化が悪い: High Peep 下でもP/F < 80
   (強引に説明するとPEEP 20mmHgの純酸素投与でもPaO2 < 80mmHg)
・ガス交換が悪い: 呼吸器ではコントロールできない高CO2、pH<7.2
ならECMOを選択するくらいで良いでしょう。
 
この基準を満たしていなくても、悪化重症傾向にあればECMO取り付けを考慮します。
無理やり超高圧呼吸管理で踏ん張りつづけたら肺にダメージが蓄積され復活できなくなると考えられており、それならさっさとECMOを取り付け肺を楽な環境にしたほうがよいとされます。
 
 
 
逆に適応にならないのは
長期ECMOのストレスに耐えられなさそうな人
肺の回復が見込めない人
ということで
重篤な基礎疾患を持つ人
末期がん患者
超高齢者
となります。
肺が回復する可能性が0に近い人にECMOつけるのは拷問であるというだけでなく、費用・機材・マンパワーなどの医療資源の観点からも考えてみるべき案件です。
適応外については厚労省で厳密な基準を作るべきでしょう。
 
 
 
<ECMOの構造>
膜型人工肺
遠心ポンプ
回路
 
 
<膜型人工肺>
肺の仕事といえばガス交換です。酸素を取り込むことと、二酸化炭素を体外に捨てることが大事な仕事です。当然、人工肺に求められる仕事もまさにこれです。
膜型人工肺は直径0.1㎜のストローのような繊維の束に空気を、その周りに血液を流します。繊維には血液は通り抜けられない細かい穴があいており、空気だけが通過できるようになっています。そこで血液は酸素を取り込み、二酸化炭素を排出して行きます。血液と空気は直接は触れ合いません。
 
ECMOで血液の酸素化は酸素濃度(FiO2)でコントロールします。血液の酸素化を増したかったら人工肺をながれる酸素の濃度を上昇させます。
二酸化炭素は人工肺を通り抜ける空気の量でコントロールします。
 
人工呼吸の管理で
・酸素化は酸素濃度と酸素分圧で
二酸化炭素は分時換気量で
コントロールするのと同様に考えてみてください。
 
 
体外循環が長時間になると、人工肺内の空気の層に水がたまり、ガス交換の効率が悪くなります。数時間に一回空気フラッシュが必要になります。ECMOの機種によっては自動でやってくれるものもあるそうですが、そこは臨床工学技師さんに聞いてください。
 
 
 
<遠心ポンプ>
目の細かいフィルターに血液を通し、さらにそれを体に戻すためには原動力が必要です。ECMOには遠心ポンプが使われます。
三角錐のような形をしていて、底面に羽がついておりこれが高速で回転します。血液がこの羽で回転させられて遠心力がかけられ、これが送血の原動力になります。
遠心ポンプの利点は、
 ”遠心力以上の圧がかからないこと”
 ”比重の軽い空気は送られないこと”
です。その代わり、遠心ポンプの羽の回転数と圧力はあまり相関しません。遠心ポンプがくるくる回っているのに、送血管が折れ曲がっていた等のトラブルで送血できておらず、患者さんに酸素がとどいていなかったなんてこともしばしばあるので注意が必要です。
 
 
<回路>
全身から戻ってきた血液は
全身→右房→右室→肺→左房→左室→全身
というように循環しています。
重症肺炎で肺がガス交換できなくなった状態では、左室から送られる動脈血はガス交換されていません。
 
どうにかして動脈血を酸素化して戻してあげたい。
そこで右房に管を2本さし、そのうち1本から血液を引き抜き、ECMOにかけガス交換して、また右房に戻すことで、肺は機能してないけどガス交換された血液が動脈をながれるようにするのがECMOの回路です。
右房から血液を引き抜くことを"脱血"とよびその管を"脱血管"
ECMOから右房へ血液を返すことを"送血"とよびその管を"送血管"
といいます。
 
多くの場合、右総頸静脈と左右どちらかの大腿静脈から管を入れます。左右の大腿静脈のペアで設置する施設もあるようです。要は管の先端が右房にあればいいのです。
右房から血液を引き抜いて同じ右房に戻すのでガス交換前後の血液が混じり合ったまま肺を経て全身に流れていくため、SaO2 100%は望めませんし、望みません。
(右房脱血して左房送血すればいいじゃないかと考えた方は天才です。しかし、それをするためには管を入れるために心臓手術ばりの準備が必要です。高侵襲すぎて死亡率が高まります。
生理的に正しいことを目指すのではなく、生存率が高い方法で選ぶと現時点ではこれが一番。
 
ECMOはガス交換だけを担当し、体循環は本人の心臓の頑張りが頼りです。
ECMOのときは患者さんは劣悪な環境を強いられまる。いよいよ心臓が耐えられなくなったときはPCPSに切り替えられます。切り替えると書きましたが、実際はすでに刺さってる脱血管を流用する程度であとは全とっかえです。
 
PCPSの場合は心臓がダメになっていて、循環できなくなった状態です。だから、右房に集まった血液を脱血して酸素化し、大動脈に送血します。肺が機能していてもして無くても同様な回路になります。脱血は大腿静脈から右房に入れた管で、送血は大腿動脈を選ぶことが多いです。
 
 
<熱交換器>
体外に血液を引っ張り出す体外循環は回路温が下がりがちです。
体動がないように筋弛緩効かせることも多く、さらに体温は下がります。
患者の深部体温が37度になるようにします。
低体温は凝固能を狂わしたりと死亡率高めます。
体温管理は大事です。
 
 
<ECMOの管理>
<抗凝固>
血管外にでた血液は固まり、回路づまりや塞栓症の原因となります。
ヘパリン等の抗凝固剤をつかって
ACT 180-220くらいを目標にします。
血が固まらせないようにする治療なので出血リスクのある検査治療は避けたほうがいいです。胸腔穿刺などは刺入部からダラダラ出血して貧血になり、大量の輸血が必要になります。
 
 
 
<ECMOの設定>
遠心ポンプの回転数は1500-3000くらいで固定。
これはECMOの機種によって異なります。
 
モニタリングとして
血圧・脈・SpO2などの通常バイタルに加えて
回路脱血圧 (低すぎたら脱血不良)
人工肺前圧    (高すぎたら人工肺の詰まりか送血管のトラブル)
回路送血圧    (高すぎたら送血管の閉塞系のトラブル)
ポンプ流量(Flow) 1分間に3-4リットル前後
 
遠心ポンプの回転数と流量は比例しないので、回路送血圧が高くポンプ流量が落ちているときは
回路の屈曲
人工肺の詰まり
ボリューム不足
などの原因を探して対策しましょう。
数字がいくつか?より、以前よりどうなった?の変化の観察が大事です。
これらに急激に大きな変化がないことを監視します。屈曲なら戻せばすぐ戻ります。
それでも戻らなかったら回路交換や輸血輸液を考えましょう。医者が。
 
ECMOの管理をしていて
ECMOの脱血の酸素飽和度(SvO2)がそれまでより急に高くなったら、脱血のしすぎかもしれません。ECMOによってきれいになって戻した血液がそのままECMOに回収されています。リサーキュレーションといいます。
結果として全身に流れる酸素化血流が減少しているってことになり危険です。
遠心ポンプの回転が強すぎる
等が原因になるので対処します。医者が。
 
 
<ECMO下の呼吸器設定>
ダメ元ECMOですから、耐えるしかありません。
推奨されているECMO下での呼吸器設定はまさに軽傷の人用の設定です。
FiO2 < 0.4
PEEP < 10mmHg
気道内圧上限 <20mmHg
呼吸回数 < 10回
 
 
<血液ガス>
pH >7.3を目指して
pCO2 35 ~ 45
BE >-3を目指して
Hb > 12はほしい
SaO2 80-90%
pO2は見なくていいです。
 
これに加えて静脈血のSvO2もマメに計測が必要です。
 
絶対的な数字というより、
SaO2 ÷ (SaO2 - SvO2) > 3
であることが超重要です。
 
 
ECMOが必要ということは、まさに緊急事態宣言です。
普段の理想的な血液ガス状態を求めたら、疲労した肺が酷使され死ぬんDeath!
そもそも高濃度酸素は毒です。弱った肺では高濃度酸素毒には耐えられません。
高濃度酸素で無気肺がすすんだり肺線維症が進んだりします。
 
ECMO下の集中管理は
"生かさず殺さず"
これが最も生存率を高める方法です。
 
 
"生きている"ためにはpHがアシドーシスになりすぎないことが大事です。
ただ、ぎりぎり大丈夫な状態の絶対値はないので、
"この数字を目指す"というものではありません。
比較的頻繁に血液ガスをみて、どんどん悪化してなければいい、破綻してなければいい位のほうがよいでしょう。
 
 
 
低酸素だと意識がなくなっていきます。
二酸化炭素CO2が貯留すると人は"苦しさ"を感じます。
ストレスがかかり、その場から逃げようともがき苦しみます。
動かれるのははカテーテルトラブルのもと、事故のもと、酸素消費量上昇のもと。
 
CO2を35-45程度の生理的な環境にすることが大事です。
ECMOの送気流量でコントロールします。
 
 
 <SaO2 SpO2 SvO2>
どれも酸素飽和度です。ヘモグロビンがどれくらい酸素化されているかを見ています。
SaO2 は動脈血液ガスで測定される酸素飽和度
SpO2 はパルスオキシメーターで測定される酸素飽和度
SvO2 は静脈血液ガスで測定される酸素飽和度
SaO2とSpO2は、安定した状態ならほぼ同じ数字を出します。
 
ECMO中は
SaO2 80%-90%で十分です。
SvO2 の変化には気をつける必要があります。
有効なECMOのためには
SaO2 / (SaO2-SvO2) >3
が必要とされています。
 
<正常の状態のSaO2>
動脈血のSaO2が100%なら、その血液のヘモグロビンがすべて酸素されているということです。
酸素は血液に溶けにくく、そのままでは十分な酸素を全身に供給できません。
 
例えるなら、酸素は泳げない人です。泳げない酸素は必要量が全身に行き渡らないのです。
ヘモグロビンは酸素にとってボートのようなものです。酸素はヘモグロビンボートに乗ることで、血液にのり体の隅々まで送り届けられます。行った先で酸素はボートを降り、細胞の活動につかわれます。つかわれた酸素は二酸化炭素に変化し、これは血液によく溶けます。自力で泳いで肺に戻ります。二酸化炭素用のボートのようなものは存在しません。
 
SaO2が常に100%にならないのは無気肺などで酸素化(ガス交換)に関与できない肺の一部を通った血液があり、酸素化されていないヘモグロビンが動脈血中に交じるからです。普段SaO2を高めようとするなら、陽圧換気にして無気肺を減らすのがおすすめです。
 
人工呼吸器で投与酸素濃度(FiO2)を50%以上にするのは悪いことです。
高濃度酸素を長時間吸入すると気道粘膜や肺胞がこわれ肺機能が悪化していきます。FiO2は可能な限り50%以下にしましょう。酸素化を高めたいときはPEEPが有効です。
呼吸器のない状態のマスク酸素では100% 酸素を投与しますが、マスク内で呼気とまじりあうことでFiO2は50%くらいに落ちるので問題ないです。
 
<正常な状態のSvO2>
SaO2 100%とはヘモグロビンボートに酸素が満員に乗った状態でした。
血液は各細胞に送られ、酸素を届け、静脈を通って右心房に戻ってきます。
右心房に集まるヘモグロビンは酸素がつかわれた状態で、つまりヘモグロビンボートは空席が目立ちます。このときの乗車率をSvO2といい、正常のときは80%前後です。せっかく送った酸素、全部使い切ってほしいものですが、人の体はそうなってないのでしょうがないです。SvO2は、スワンガンツで計測するアレです。
SvO2が低いときは戻ってきたボートの乗車率が低い状態・・・つまり
1. そもそも行きのボートが満員じゃなかった (低酸素状態)
2. 酸素が非常に必要な状態で多くの酸素がボートから降りた (代謝亢進)
3. ボートの台数が少なかったため、目的地についたボートからは降りる酸素が多かった (貧血)
4. 川の流れが悪く、ボートが隅々まで行き渡るのに時間がかかるため、目的地にたどり着いた1台のボートからは降りる酸素が多かった (心不全: 低心拍出症候群)
この1,2,3,4のどれかか混合状態です。
SvO2が高いときはボートの下車率が低い状態であり、酸素がつかわれてない状態です。敗血症とかです。
 
 
<ECMO中のSaO2>
繰り返しになりますが、ECMOは右房から脱血して圧力かけて酸素化し、同じ右房に戻す血行動態です。ECMOを通った血液は完璧に酸素化されますが、全部の血液をECMOに通過させることはできません。回路上古い血液と新しい血液が交わってしまう、満員のボートも空席ばかりのボートも交わるためSpO2 100%なんて望めません。
SpO2は80%-90%くらいが目標になります。患者さんはそれでもなんとか生きていられるので、それで耐えてもらいます。
 
 
 
<ECMO中は最低限必要な酸素を届けられればいい>
酸素がないと細胞は死んでしまいます。
不十分な酸素の環境で即死するわけではなく、酸素がなくても嫌気代謝でしばらく頑張リます。嫌気代謝での副産物が、乳酸がたまりアシドーシスになります。これを放置すると循環システムが破綻し死ぬんDeath!
 
全身の細胞がかろうじて呼吸できるだけの酸素を与えればいい。
全身の細胞が最低限呼吸もできないほどの酸素投与だとアシドーシスになる。
 
pHやBE、重炭酸が許容範囲内にあるなら、酸素は最低量はとどいているとみなせます。
これらが徐々にアシドーシスに進んでいるときはECMO管理が不十分です。
放置したら破綻します。死ぬんDeath!
どうにかしてより多くの酸素がながれるようにしなくてはなりません。
 
 
ECMOは万能マシンではなく、ECMOで改善させられること限界があります。
そこで管理するべきなのは
ヘモグロビン濃度を満足させるための輸血と
十分な心拍数です。
 
 
 
これの解説をします。嫌でしょうがお付き合いください。
 
<酸素含量 Co2>
実際に酸素含量(Co2)の式というのがあって、血液100ml中の総酸素の量は
 
Co2 = 1.34 x Hb x 酸素飽和度 + 0.003 x PO2
 
となっており、PO2の変化など微々たるものだということがわかります。ゆえに
 
Co2 ≒ 1.34 x Hb x 酸素飽和度
 
と考えます。
 
 
<酸素供給量 Do2>
酸素が豊富に含まれる血液でも、流れていなければ全身には届きません。
どれだけの酸素が全身を巡っているのか? を知りたくないですか?
そこで酸素供給量 (Do2)という概念があって、1分間にどれだけの酸素が流れたか?の指標です。
式を見るのは嫌でしょうがもうちょっと。
 
Do2 = Co2 x 10 x 心拍出量
        ≒13.4 x Hb x 酸素飽和度
 
式の細かいことはカット(10は単位合わせの10です)。
 
この式からわかることは
全身への酸素供給は
  1. Hb(ヘモグロビン濃度)
  2. SaO2(酸素飽和度)
  3. C.O. (心拍出量)
におおきく影響受けるということです。
 
ちょっと脱線して、
どの程度の貧血(ヘモグロビン濃度が薄い状態)まで耐えられるのか? 考えてみましょう。
Do2 ≒ 13.4 x Hb x 酸素飽和度 x  心拍出量
ですから、呼吸が正常(SaO2 100%で変わらない)時、貧血になって低下したDo2は
心拍出量を増やすことでカバーできます。
ということは、貧血がすすんで脈拍が上がった時、それが貧血状態で余裕がなくなった時です。
手術出血でHb < 8となったら輸血しまことが多いですが、頻脈になったら貧血かな?と考えてみてはいかがでしょう。
 
 
ECMOの人工肺は赤血球を壊して行きます。構造上しょうがないのです。長期にECMOを稼働させると貧血が進みます。
 
貧血が進んでヘモグロビン濃度が半分で
酸素飽和度が80%
心拍出量が普段の80%
の環境になったとすると、正常の人にくらべて酸素供給量は
0.5 x 0.8 x 0.8 = 0.32
実に32%まで減少してみます。
 
貧血状態で、血ガスでアシドーシスが進みそうなときは輸血も考慮しましょう。
 
 
 
もう一つ大事な指標があります。お付き合いください。
 
<酸素消費量 Vo2>
全身の酸素消費量は
全身に送り出された血液のDo2 (=DaO2)から
全身から戻ってきた血液のDo2 (=DvO2)を引いたものです。
Vo2 = DaO2-DvO2
です。
 
そしてECMOのガイドラインによると
酸素消費量(Vo2) の3倍の酸素供給量(DaO2)をECMOで投与するのが生存のために必要とあります。
 
DaO2 / Vo2
=DaO2 / (DaO2 - DvO2)
=<略>
≒SaO2 / (SaO2-SvO2) >3
 
ゆえにSaO2とSvO2のこまめな測定が必要です。
 
 
 
 
SaO2 / (SaO2 - SvO2) > 3
にならないときは
酸素供給量(Do2)に問題があります。
繰り返しですが
Do2  ≒ 13.4 x Hb x SaO2 x 心拍出量
です。
そしてSaO2はECMOだと増やせません。
よって" >3 "にならないときは
 
Hbを上げる・・・輸血する
心拍出量を上げる・・・カテコラミン等増量
を考慮しましょう。
 
心拍出量をあげるとき、ECMOのフローあげても無駄です。心臓サポートではないですから。
心拍出量が上がらないときはPCPSに切り替えることも考慮しましょう。
 
 
 
 
 
 
<ECMOから離脱するとき>
ECMOの酸素化を停めて血液ガスが成り立つ時
ECMOの酸素供給をやめればECMOは"なかったこと"になります。
この状態で血ガス等がなりたち、胸部レントゲンが改善傾向にあればポンプ離脱を考えていいのではないでしょうか。
 
 
<ギブアップするとき>
回復が望めない状態になった
脳出血などで瞳孔散大・瞳孔不同など出現したら、もはや元の状態には戻りません。
ギブアップを考えるタイミングです。
 
 
 
<ECMO運営の現状>
そんな過酷な環境で数週間から数か月耐えられたら復帰できるかもしれません。
時間をかけたら復帰できる見込みのある人に適応があります。
末期がんの延命には適応がありません。
喫煙者など肺に障害あるひとも復活は難しい。
高齢者もむずかしい。
管理も大変でECMOに熟知しているスタッフが常時3-4人いないと成り立たない。
 
保険請求額として、ECMO初日が400万。翌日から1日あたり3万円請求される高額医療です。
 
一気に大量発生した場合はECMO取り付ける患者さんの選択も余儀なくされるでしょう。
先に感染し悪化した人たちが優先にするべきなのか・・・それとも・・・
 
 
今回書いたものが重症化コロナの生存率の向上に役立てたら幸いです。
 
 
ご質問受け付けてます。