Online よろず相談所

アラ50の医師が ゆるい説明しています

ペースメーカーの話 その1

ループレコーダーの話をしたので、よくあるペースメーカーの話をしたいと思います。
 
 
ペースメーカーは脈が遅くなるタイプの不整脈に対してつかわれます。
 
徐脈とは遅い脈のことで、定義としては、脈拍が1分間に60拍未満のときに徐脈といいます。脈拍60以下になったらすぐ危ない・・・ということはなく、脈拍40後半でも無症状の人がほとんどです。
 
徐脈になると心臓がもうすぐ止まる・・・と不安になる人も多くいるのですが、徐脈=もうすぐ死ぬではありません。
 
心臓は筋肉でできた袋で、この筋肉を心筋といいます。
心筋は心筋細胞がいっぱい集まって袋の形になっています。
心筋が収縮することで、筋肉の袋は縮まり、中に入っていた血液が力強く押し出されて、各臓器に送られています。
 
心筋細胞がバラバラに伸びたり縮んだりしても、中の血液はモミモミされているだけで、血液は先には送られません。
 
小学生のときのおしくらまんじゅうをしたとき、生徒たちがみんなでバラバラにやっても(協調してないと)力が抜けて圧力がかからず、おしくらまんじゅうになりません。
 
そこで、担任の先生(体育の先生?)が笛でピッピとふくと、生徒たちはタイミングよく力を合わせるようになり、圧力がかかり、すばらしい おしくらまんじゅうになります。リズムを取ることって大事ですね。タイミング=時期を合わせることを"同期させる"といいます
 
先生の笛の役目は心臓では電気信号でやっています。
生徒がどんなに元気でも笛ピッピがちゃんと聞こえないとおしくらまんじゅうできないように、心筋がどんなに元気でも電気信号が適切に伝えられないと、心臓は十分仕事できません。それで心臓には電気回路が備わっています。
刺激伝導路と呼ばれます。
 
その刺激伝導路の障害で、
笛の間隔がおそくなったり(洞不全症候群など)
伝達できなくなったり(房室ブロックなど)
すると脈が遅くなって障害が出ます。
笛が聞こえなくても生徒たちは勝手に動き出すように、心筋は信号がこなくても最低速度で動くようになっていますが、脈拍30-40くらいの非常に遅い脈です。
心筋細胞が元気でも、おそすぎる脈では全身に十分な血液が届けられないので、めまいやふらつきなどの症状が出ます。
 
それをなんとかするのがペースメーカーです。
常に心臓の脈を監視して、設定された心拍数以下にならないようにしています。
刺激伝導系を治すための治療ではありません。刺激伝導系の代わりをするものです。
だから植え込んだペースメーカーを外す事は普通なく、一生入れたままにします。
 
電池は7-10年持ちます。
充電式ペースメーカーはまだ存在せず、電池が無くなるまえに外科手術で本体だけ交換します。電池がなくなったら必ず心停止・・・というわけではないですが、手術する前の状態には戻ってしまいます。電池チェックは病院によりますが数ヶ月に1度行われます。
 
局所麻酔の小手術が必要で、
左右どちらか(利き手じゃない方等)の鎖骨の1-2cm足側に5cmくらいの皮膚を切り、そこに直径5cm、重さ20gくらいのペースメーカー本体と、そこから心房・心臓に電線をはわせます。
電線は1本か2本です。3本使うタイプのペースメーカーもありますが、それは重症心不全の心臓に使う特殊タイプです。電気ショックつきペースメーカーもありますが、これも徐脈だけの人には使用されません。
 
 
 
よくある質問で
携帯電話は使えますか?
〇〇は使えなくなる?
とかあります。
 
電磁波を出すもののそばにいるべきではないことになっています。
体内に埋めこまれたペースメーカーは無線で設定変更とかするのですが、無線とは結局電磁波なので、誤作動の可能性があるから・・・です。
電気で動くものはすべて電磁波を出すので、厳密に言うとすべてダメということになってしまいます。
が、強い電磁波でなければペースメーカーが狂わされることはないです。
そして電磁波は、発生機械から離れれば離れるほど弱くなっていきます。
 
磁石はごく近くだと強い力でものを引き寄せるけど、いくらか距離をあけると引き寄せのちからが弱くなりますね。電磁波は電気と磁力でできている波なので、ちかくにあるものは強い影響力、離れると弱い影響力になります。
キッチンのIHヒーターは強力な電磁波を出しますが、50cmほど離れれば大丈夫と言われています。スマホとか携帯電話は16cmほど離せば大丈夫。左の胸にペースメーカー入っている人は、右の耳に当てる電話なら問題ないです。電車で隣の人が電話かけてても、誤作動は起きません。
ペースメーカの真上に強力な磁石を置くとか、強力な電磁波が発生する発電所等で働くとかは避けたほうがいいでしょう。電源をいれたままの電気毛布・電気カーペットはさけた方がいいです。先に温めておいて電源をきったあと毛布に入り込むことは何ら問題ないです。
飛行機乗るときの金属探知機は通らないように指導されますが、立ち止まらなければとくに問題ないです。お店の入り口によく見かける盗難防止装置も同様にさっさと通り抜けて仕舞いましょう。急に気分が悪くなったら、そこから数メートル離れればいい程度に考えていて大丈夫です。
 
そもそも、誤作動といっても、ペースメーカーが止まっちゃうとかじゃありません。メチャクチャな脈になるというわけでもないです。
ペースメーカーはよく設計されていて、強力な磁力の元では、マグネットレートといって、ペースメーカー本体の、初期設定モードで動くようにできています。バッテリー残量のチェックにつかわれます。
なので強力な電磁波に触れて心臓が止まるとか、ぶっ倒れるとかはありません。
個別に細かい設定していたペースメーカーが、最低保障の設定に戻るので、そこでいささか不快に感じる人が出てくるかもしれません。が、ペースメーカーが機能停止するわけではないです。死んでしまうこともないです。
 
MRI(脳外科や整形外科でつかわれる強力な磁力を仕様した検査)は注意が必要で
MRI対応型のペースメーカーシステムを使っている人は無問題。
MRI非対応型のペースメーカーシステムを使っている人はMRI禁止です。
MRI対応型は10年くらい前からつかわれるようになりました。それ以上前にペースメーカー埋め込んだ人はMRI禁止です。
 
 
手術のリスクといっても、他の外科手術よりはリスク少ないですし、
ペースメーカーを植え込むだけで快適になるなら、積極的に考えていいんじゃないでしょうか。
ペースメーカー本体は1個100万円くらいです。
 
 
医療の相談お待ちしてます。