炭鉱の町
とある地方都市で医師として働いていたことがある。その町はかつて炭鉱で栄えた歴史を持つ。ここでは、他の地域では見られないような重症の動脈瘤の患者を診る機会が多かった。この町の人々には高血圧や糖尿病が多く、腎不全から透析治療を受けている人も少なくない。この町で何度も外食したが、他の都市に比べると料理の量が多く、塩分も強い印象を受けた。若者なら問題ないかもしれないが、年配者がこのような食事を続けていれば、高血圧になるのも無理はない。おそらく、この町ではこのくらいの量と塩分が「標準」なのだろう。濃い味付けとボリュームのある食事が習慣化されている。これは、かつて炭鉱の町だった歴史が影響しているのではないかと考えている。
過酷な労働環境
炭鉱での仕事は過酷な肉体労働だった。坑道に潜り、石炭を掘り、運び続ける。運動量は膨大で、汗も大量にかく。そんなお父さんたちは家に帰ると、がっつり食べていたはずだ。たくさん働き、たくさん食べる。汗で失われる塩分を補うため、高塩分の食事が必要だったのだろう。そのお父さんたちの子どもたちにとって、こうした食事は「当たり前」のものだった。大量で塩分の多い食事が普通だと信じて育ち、大人になってもその食習慣を続けた。しかし、現代では多くの人が涼しい部屋での事務職や軽作業に従事している。炭鉱時代のような激しい肉体労働をする人はほとんどいない。それなのに、食生活は高カロリー・高塩分のまま。運動量と摂取カロリーのバランスが崩れたまま中年、老年を迎え、結果として生活習慣病を発症する人が増えている。
長野県の事例
実は、似たような状況が長野県でも見られた。長野県はかつて、塩分を多く含む漬物や味噌を使った食文化が根強く、1960年代には高血圧による脳卒中などの死亡率が全国で最も高かった。しかし、県をあげての減塩啓蒙キャンペーンが功を奏し、食生活を見直す取り組みが広まった。例えば、味噌汁を1日1回に減らす、野菜を積極的に取り入れる、といった小さな変化を住民に促した結果、塩分摂取量が減り、血圧レベルの低下とともに脳卒中死亡率も大幅に改善。2010年には長野県の平均寿命が男女ともに全国トップとなり、現在は「健康長寿の県」として知られている。この事例からも、運動量と食事量・塩分のバランスを見直すことで、生活習慣病を予防できることがわかる。 生活習慣病の怖さは、「誰も悪くない」点にある。食生活は子どもの頃からの家族の習慣であり、「当たり前」の生活を続けてきただけだ。しかし、機械化や効率化が進み、昭和やそれ以前のような肉体労働はほぼなくなった。それでも食生活を見直さなかったことが、現在の健康問題につながっているのだろう。学生時代にラグビーなどハードなスポーツをしていた人が、社会人になって運動をやめ、食生活だけはそのままにして激太りする――そんな話はよく耳にする。生活習慣病は、長年の生活の積み重ねで発症する、ダメージの大きな病気だ。長野県の成功例が示すように、運動習慣と食生活のバランスを整えることは、健康を守るために不可欠だ。あなたも、毎日の食事や運動習慣を少し見直してみませんか?
実は、似たような状況が長野県でも見られた。長野県はかつて、塩分を多く含む漬物や味噌を使った食文化が根強く、1960年代には高血圧による脳卒中などの死亡率が全国で最も高かった。しかし、県をあげての減塩啓蒙キャンペーンが功を奏し、食生活を見直す取り組みが広まった。例えば、味噌汁を1日1回に減らす、野菜を積極的に取り入れる、といった小さな変化を住民に促した結果、塩分摂取量が減り、血圧レベルの低下とともに脳卒中死亡率も大幅に改善。2010年には長野県の平均寿命が男女ともに全国トップとなり、現在は「健康長寿の県」として知られている。この事例からも、運動量と食事量・塩分のバランスを見直すことで、生活習慣病を予防できることがわかる。 生活習慣病の怖さは、「誰も悪くない」点にある。食生活は子どもの頃からの家族の習慣であり、「当たり前」の生活を続けてきただけだ。しかし、機械化や効率化が進み、昭和やそれ以前のような肉体労働はほぼなくなった。それでも食生活を見直さなかったことが、現在の健康問題につながっているのだろう。学生時代にラグビーなどハードなスポーツをしていた人が、社会人になって運動をやめ、食生活だけはそのままにして激太りする――そんな話はよく耳にする。生活習慣病は、長年の生活の積み重ねで発症する、ダメージの大きな病気だ。長野県の成功例が示すように、運動習慣と食生活のバランスを整えることは、健康を守るために不可欠だ。あなたも、毎日の食事や運動習慣を少し見直してみませんか?