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ショックと言われるとこういう悲劇的なものを連想しますが、医療界でショックと言われれば急性循環不全のことです。循環とは体の隅々の細胞に血液をのせた酸素を送り届けることです。ショックとは「組織還流が不足した状態」とも定義されます。
ショックの症状といえば低血圧、頻脈、顔面蒼白、冷汗です。
なんらかの原因で循環不全がおきると、まずは血圧が保てなくなります。低血圧になります。隅々の細胞は酸素が足りてない!なんとかしろと交感神経が興奮し心臓にとにかく頑張れと命令します。その結果頻脈になります。酸素が十分届いていないので顔面蒼白になります。交感神経の興奮に汗腺が反応して発汗がおき、同時に末梢血管は収縮し手足は冷たくなります。結果冷汗がでます。
ショックは原因から4つに分類されます。
循環血液減少性ショック :血液がたりない
心原性ショック :心臓のポンプ機能が落ちている
血管分布異常性ショック :末梢血管抵抗がへりすぎた
心外閉塞・拘束性ショック :どこかで血流がとまっている
循環をプールに例えると
プールの水が循環血液。
プールの水面の高さが血圧。
プールの底面積は末梢血管の広がり。
プールには浄化槽が必要で常に循環してきれいにしていないとプールの水はすぐ悪くなってしまいます。この浄化槽を通過させるためのポンプは心機能であると言えます。
するとショックの病態はそれぞれ
循環血液減少性ショック :プールの水がそもそも不足。
心原性ショック :ポンプ機能がおちていて、水が浄化されず使用できなくなる。
血液分布異常性ショック :プールの底面積が広くなり、水位が低くなってしまった。
心外閉塞・拘束性ショック :浄化槽ポンプの回路が詰まっている。
となれば対策はそれぞれ
循環血液減少性ショック :不足した水を増やす→輸液する。
心原性ショック :ポンプを強化する→ベータ刺激薬系のカテコラミンや補助循環を使う。
血液分布異常性ショック :底面積を狭くする+相対的に足りない水を増やす→アルファ刺激薬系のカテコラミンや補液をする。
心外閉塞・拘束性ショック :つまりを解除するか別のポンプ・回路を用意する→外科的に原因の除去か、応急処置的にPCPS(VA-ECMO)。
となります。同じ循環が破綻するショックといえど、原因で分類すると4種類あり、治療も4種類にわかれます。
循環にまつわるパラメーターを式で表していきましょう。
血圧 = 心拍出量 x 末梢血管抵抗
むかし、理科で電気の勉強したときに
電圧 = 電流 x 抵抗
なんてやった記憶ありませんか?オームの法則です。この法則は循環にも当てはまるのです。
この式に当てはめれば、先程の血液分布異常性ショックもわかりやすいでしょう。
心拍出量が変わらない状態で末梢血管抵抗が半分に下がると血圧も下がってしまうのです。アルファ刺激のカテコラミンが投与されると血管抵抗がますので血圧が上がります。ベータ刺激のカテコラミンが投与されると心拍出量が増えるので血圧があがります。
血圧 = 心拍出量 x 末梢血管抵抗
の心拍出量についてもう少し詳しく。
心拍出量とは1分間あたりに循環している血液量です。正常成人では約4-6L/分です。
1分間あたりの心臓から出ていく血液量でもあります。
1分間あたりに肺を通る血液量でもありますし、1分間あたりに心臓に戻ってくる血液量でもあります。
循環とは回転寿司のレールのように一本の流れですからどの部分で測っても速度は同じです。回転寿司で流れてくる寿司はどの席に座っても同じスピードであるのと同じです。
心拍出量 = 一回拍出量 x 心拍数
一回拍出量とは、心臓が一回あたり何mlの血液を送り出すか?です。正常値は60-130mlとされていますが、だいたい70mlとおぼえておけばよいでしょう。
心拍数とは、その心臓が1分あたり何回拍動するか?です。正常値は1分あたり60-80回といわれてます。
1回あたり70mlで1分間に60回心臓が送り出す・・・ということで1分あたり4200ml程度が心拍出量となります。
血圧 = 心拍出量 x 末梢血管抵抗
心拍出量 = 一回拍出量 x 心拍数
この式を改めて見れば、例えば血圧をあげたいのなら
1心拍出量を増やす
一回拍出量を増やす 補液し前負荷をあげる
ベータ刺激系カテコラミンで収縮力を上げる
心拍数を増やす ベータ刺激系カテコラミンや硫酸アトロピンで心拍数を増やす
2末梢血管抵抗を増やす
アルファ刺激のカテコラミンを用いて末梢血管抵抗を高める
となります。どの順番に対策とるか?は病態によりけりです。
循環血液減少性ショック
心拍出量が少ない。一回拍出量が落ちてる。少ない血液で循環を補おうと、心拍数はすでに上がっているはず。補液して前負荷を高め一回拍出量を増やす。
心原性ショック
一回拍出量と心拍数が両方とも、あるいはいずれかが落ちている。収縮力アップ、脈拍を早める薬剤投与。(ダメなら補助循環)
血液分布異常性ショック
末梢血管抵抗の低下による血圧低下。敗血症やアレルギーが原因のことがおおい。限られた血液で循環を維持しようと頻脈になっていることがおおい。原因を除去する治療をしつつ、末梢血管抵抗を高めつつ足りない分は補液が必要となることもある。
心外閉塞・拘束性ショック :浄化槽ポンプの回路が詰まっている。
これは回路トラブルによる一回拍出量の物理的な低下。代償的に頻脈になることが多い。補液やカテコラミンも必要ですが重症のときはこれでは不十分で補助循環が必要で、さらに外科的に詰まりの原因を取ることが必要になります。
ここで心原性ショック以外は頻脈になりやすい傾向があります。ショック状態がおきると、それでも循環を維持しようとして心拍数をあげて代償しようとします。それでも足りなくなると、ショックは顕著化します。頻脈にしても頻脈血圧の低下と頻脈をみたらショックの前兆かもという意識はもっていてよいでしょう。
血圧が下がったので心エコーで心臓を調べてみたところ、心収縮力の指標(EF)などは正常で心臓は問題ない、むしろ頻脈。なんてときは、心原性以外のショックになっている可能性が高いです。じゃあ何を指標に?となります。集中治療室だとAラインとよばれる、動脈カテーテルを介した常時血圧測定がされていることがおおいでしょう。その動脈の波形でスパイク状にとんがっていて膨らみの少ない波形だと、血圧はあっても心拍出量が落ちていることがおおいです。また血液ガス測定も指標になります。循環血液量不足だと、全身のすべての細胞に血液と酸素が届けられません。オートレギュレーションと呼ばれる、生存のためにとにかく頭と体幹だけでも保護しようプログラムがあり、ショック状態だと手足の血流は減らされてしまうのです。日常の冷え性も同じ理由で起きることがあります。酸素と血流を減らされた手足の細胞は、それでも生きていく必要があるので嫌気性代謝を始めます。これは糖から酸素を使わずエネルギーを取り出す方法で、非常に効率がわるく、かつ乳酸が廃棄物として出されます。乳酸は血液ガス測定ではラクテートとして測定されます。この値が高くなることでショックが起きていることが予想されます。また、乳酸は酸ですから血液を酸性に傾けさせます。pHが下がったりベースエクセス(BE)がマイナスになることも循環不全=ショックが起きていることが推測できます。
モニターや血ガスから言えるショックはこのような感じとなるでしょう。
ただ、数字は変化してなくても実は大きな障害が隠されている場合も多く、経験的に気づくことも多くあります。いろんな症例をいっぱい経験することはとても大事です。