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アラ50の医師が ゆるい説明しています

4 心収縮性?

心臓とは筋肉でできた袋です。入口と出口にそれぞれ逆流防止弁がついた袋です。

この袋に入口から血液が入ってきて、袋が収縮し、出口から血液が出ていきます。

袋に血液を入れる力が前負荷です。

袋からでていく血液の障害になるのが後負荷です。

そして袋自身をぎゅっと収縮させて血液を押し出す力が心収縮性です。

心収縮性とは心筋がどれだけ強く縮めるかの指標になります。

 

収縮力の指標としてはEFが有名です。Ejection Fractionの略で駆出率のことです。

EFは(一回の収縮で押し出された血液量) ÷ (最大拡張期の心室容量)、つまり

EF = 一回拍出量 ÷ 拡張期末期容積

で求められます。

収縮時にどれだけ袋である心臓自身を握りつぶして血液だしたかの指標になります。

正常値で60%ほど。収縮率が落ちると数字はさがっていきます。EF 40%だと結構弱った心臓。EF20%だと日常生活にも強い制限がでることが多いレベルの心不全なイメージで良いのではないでしょうか。

 

収縮力が落ちた心臓は多くの場合心拡大します。心筋には筋肉としての収縮力の他に、ゴム紐のように引っ張られれば引っ張られるほど張力がますという2つの特性があります。これをフランク・スターリングの法則とよびます。ただし、無限に伸びるわけではなく、一定以上伸びると逆に収縮力は低下します。EF20%のような収縮力が落ちた心筋は、足りない収縮力を、自らをひっぱり続けることでなんとか必要な血液を送り出そうとするのです。胸部レントゲンではどっぷり大きくなっている心臓が特徴的です。

 

EF 60%あったら循環破綻はないと思われがちですが、前負荷が少なすぎた状態、つまり入口から入る血液がほとんどなければ袋が収縮しても血液はでていけません。弾を込めない銃をうっても空打ちになるだけです。同様に高血圧や大動脈弁狭窄症など、後負荷が高すぎた状態だと袋の出口がほとんど閉ざされた状態になってしまうので血液は出ていけません。EFが正常でも循環破綻はおきることがあるのです。

 

収縮率を良くする薬といえばカテコラミンが挙げられます。

カテコラミンは交感神経から分泌される神経伝達物質です。ストレスがかかった時に分泌されると言われています。我々の先祖がまだ弱者だったころ、敵から逃げるため、あるいは戦うための神経伝達物質といわれています。

カテコラミンの受容体は心臓や肺や末梢血管に分布しており、カテコラミンが分泌されると心臓では心収縮力があがり、心拍数も上がります。大量の血液を全身に回すためです。

肺は気道が太くなり大量の空気が取り込めるようになります。末梢血管では血管の収縮がおこり血圧が高くなります。いずれも身体の運動能力を高めて危機から脱出するための変化といえるでしょう。

 

カテコラミンには大きく分けてアルファ作用を起こすものとベータ作用を起こすものがあります。

アルファ作用の受容体は末梢動脈の平滑筋に多く分布されていています。反応すると末梢動脈が収縮するのでこれは後負荷を高める作用のあるカテコラミンです。

ベータ作用の受容体は心臓や肺にあります。心収縮力と心拍数が上がり心拍出量が増えます。

 

かつて、「心不全は心臓が弱った状態だ、ならば心臓は常に強く働かせればよい」と考えられていた時代がありました。心不全の患者にカテコラミンをずっと投与し続けたり、ジギタリスなど心収縮力を高める強心薬と呼ばれる薬が好んで処方されました。しかし研究によると強心薬を投与され続けた患者は長期生存率がなかなか上がらない。ベータ遮断薬のように、心臓の動きを弱らせる薬を投与されていた患者のほうが長生きしたのです。

心臓をむりに働かせないで、らくさせて上げたほうが長持ちするということでしょうか。

現在はショックなどの急性期のときはやむなく強心薬をつかい循環動態を維持させます。しかし長期使用は心筋に負担をかけるため、安定期にはいって強心薬が不要になるまで回復したら、以後ベータ遮断薬などの心抑制薬が好んで投与されます。後負荷を下げるために血圧を下げるべく、ACE阻害薬やARB、利尿剤が処方されとにかく心臓を楽させるような内服管理が行われます。

 

ベータ遮断薬は良い薬ですが、非選択的ベータ遮断薬では喘息が起きやすいのが問題点です。肺にもベータカテコラミンの受容体があり、これが遮断されると気道が閉塞してしまい、喘息が誘発されやすくなるからです。

 

麻酔薬や鎮静薬も心抑制があります。寝かされることで世のストレスから解放され、普段の血圧を保つ程度の体内カテコラミンも減少するからです。

 

心収縮力が落ちる代表的な病態といえば心筋梗塞が挙げられます。心臓全体に血液を送るための冠動脈が動脈硬化などの原因で閉塞した場合、閉塞部より末梢の心筋は虚血となり壊死してしまいます。壊死した部分は収縮力がなくなります。冠動脈の下流でおきた梗塞なら壊死によるダメージも小規模ですみ、普通に生活できる可能性がありますが、冠動脈上流で病変がおきると、その下流にある心筋すべてがダメージをうけます。広範囲な心筋ダメージは心収縮力を大きく損ない、死亡リスクが高まります。

心筋炎も心収縮力が落ちる病態です。特に遺伝的要員が高いと言われている拡張型心筋症は心収縮力が落ち心臓がどんどん大きくなっていく病態です。末期になると心移植の適応になります。

他にも弁膜症や先天性心疾患を放置し、心不全を繰り返し心筋のダメージが蓄積すると徐々に心収縮力は落ちていきます。

そうならないためにも早期発見早期治療や予防医学は大事です。心筋は基本的に再生しません。だからこそ予防が重要なのです。