手術室や集中治療室では、患者には様々なモニターが装着されています。
その中でも、最もよく目にする数字の一つが
**SpO₂(酸素飽和度)**です。
正常ならだいたい100%。
高齢者でも96%前後あれば十分です。
数字が下がるとモニターが鳴り、医療者は一瞬緊張します。
しかしこのSpO₂という数字、
実はそれほど単純なものではありません。
SpO₂とは何を測っているのか
血液中の酸素は、そのほとんどがヘモグロビンと結合して運ばれています。
SpO₂とは、そのヘモグロビンのうち
何%が酸素と結合しているかを示す指標です。
ヘモグロビンをバスに例えるなら、
SpO₂はバスの稼働率のようなものです。
100%ならすべてのバスに乗客(酸素)が乗っている状態。
90%なら10%のバスが空席、ということになります。
SpO₂はどこで測っているのか
SpO₂はたいてい指先に赤く光るセンサーをつけて測定します。
ネイルやマニキュアが禁止されることもあり、
「爪の血液を測っている」と思われている方も多いようです。
しかし実際には爪を測っているわけではありません。
センサーは赤い光を皮膚に通し、
その透過した光を利用して酸素飽和度を計算しています。
つまり光が通過できる場所ならどこでも測定できます。
実際には
- 指先
- 耳たぶ
- 足の指
などで測定することもあります。
ペンライトを手にかざすと、手が赤く透けて見えます。
あのように光が透過する部位であれば、測定は可能です。
末梢循環が悪いとSpO₂は信用できない
SpO₂の弱点はここです。
末梢循環が悪くなると正確に測定できません。
例えば
- ショック状態
- 低体温
- 強い血管収縮
などでは、指先の血流が減ります。
するとセンサーは十分な信号を拾えなくなり、
実際とは違う値が表示されることがあります。
「SpO₂が低い!」と慌てていたら、
単に指が冷えていただけだった、ということも珍しくありません。
この現象は、状態が安定している患者ではあまり起こりません。
むしろ
ショックや循環不全など、
重症であればあるほど起きやすいのです。
つまり
「一番詳しくモニタリングしたい場面」で
一番アテにならなくなる可能性がある。
そこがSpO₂の難しいところです。
ベテランは音で気づく
SpO₂モニターには、脈拍に合わせて
ピッ、ピッ、ピッという音が鳴ります。
実はこの音、SpO₂の値によって音程が変わります。
100%に近いと高い音。
70%くらいになると、思わず絶望を感じるような低い音になります。
数字を見る前に
「あれ?」
と音の違いに気づくようになったら、
それはもうかなりのベテランです。
SpO₂と「息苦しさ」は別の話
もう一つ大事なことがあります。
SpO₂が下がることと、息苦しさは別の問題です。
試しにSpO₂モニターをつけた状態で
少しだけ息を止めてみると分かります。1分ほどでかなり苦しくなります。
「もう息ができない」と感じるはずです。
しかしその時点でも
SpO₂はほとんど下がっていないことが多いのです。
なぜでしょうか。
息苦しさを感じる主な原因は
血中の二酸化炭素(CO₂)の上昇だからです。
酸素ではなく、CO₂が増えることで
呼吸中枢が刺激され「苦しい」と感じます。
逆に言えば、
低酸素状態では脳の活動そのものが低下していくため、
苦しさを感じることなく意識を失うこともあります。
SpO₂が下がるということ
血液は正常な肺を通過すれば、
ほぼ100%近くまで酸素化されます。
それなのにSpO₂が90%しかないということは、
肺を通過した血液の一部が
十分に酸素化されなかった
ということになります。
例えば
- 肺炎
- 無気肺
などで機能していない肺の部分があると、
そこを通過した血液は酸素を受け取れません。
その結果としてSpO₂が低下します。
SpO₂と血液ガス
指や耳で測定する酸素飽和度がSpO₂。
血液ガス検査で測定される酸素飽和度がSaO₂です。
皮膚を通して推定するか、
血液を直接調べるかの違いです。
血液ガスではさらに
**PaO₂(酸素分圧)**という指標も測定されます。
これは血液に溶けている酸素の量を示しています。
モニターを見る前に患者を見る
SpO₂はとても優れたモニターです。
しかしそれは
患者そのものではありません。
末梢循環が悪ければ値は狂いますし、
SpO₂が正常でも呼吸が十分とは限りません。
数字だけを見ていると、
簡単に本当の状況を見誤ります。
SpO₂が下がったとき、
最初にするべきことは
モニターを見ることではなく、
患者を見ること。
それが一番大事なのだと思います。