麻酔モニターには必ず
カプノメーターの波形が表示されています。
たいていモニターの下の方でしょうか。
四角い箱型の波形が並びます。
波形があれば呼吸している。
なければ呼吸が止まっている。
しかしこの波形は
それだけではありません。
麻酔科医は
数字よりも波形を見ています。
カプノグラムの波形には
呼吸だけでなく
気道や回路の状態まで
多くの情報が含まれています。
この波形は
いったい何を教えてくれるのでしょうか。
カプノグラムの基本
カプノメーターは
挿管チューブ付近のCO₂分圧を測定するモニターです。
呼吸というものは
CO₂がほぼ0の外気(酸素+空気)を吸い込み
肺でガス交換を行い
CO₂が約40mmHgの呼気を吐き出す
というサイクルです。
そのためカプノグラムでは
吸気時は0
呼気になると一気にCO₂が上昇
呼気中は横ばい
吸気になると再び0
という波形になります。
この波形は
4つのフェーズに分けて説明されます。
Phase 0 吸気相
新鮮空気を吸っている状態です。
新鮮空気にはCO₂はほぼ含まれないため
値は0になります。
Phase I 呼気開始
呼気が始まりますが
最初に出てくるのは気道の死腔ガスです。
ガス交換に関与していないため
CO₂はまだ検出されません。
Phase II 上昇相
肺胞ガスが混ざり始め
CO₂濃度が急速に上昇します。
Phase III プラトー
肺胞ガスのみが検出されます。
波形はほぼ横ばいになります。
このプラトーの終わりが
**EtCO₂(呼気終末CO₂)**です。
このプラトーの終わりがEtCO₂です。
EtCO₂については以前の記事で詳しく説明しています。
異常な波形
カプノグラムは
トラブルを教えてくれるモニターでもあります。
いくつかよくある例を挙げます。
波形が出ない
カプノメーターの電源や接続がされていない。
地味ですが
意外と多いトラブルです。
夜中など
毎回臨床工学技士さんを呼ぶのも気が引けるので
電源くらいは覚えておくとよいでしょう。
波形が0のまま
換気されていません。
考えるべきことは
・人工呼吸が始まっていない
・回路が外れている
・食道挿管
・サンプリングチューブ外れ
サンプリングチューブなら可愛いものですが
回路外れなら患者さんは窒息状態です。
早く気づく必要があります。
余談ですが
麻酔覚醒時に暴れる患者さんは
導入時の換気不十分の記憶が残っていて
パニックになっていることがある
と聞いたことがあります。
Phase Iが0にならない
呼気のCO₂を再呼吸しています。
ICUの人工呼吸器では
呼気はそのまま排気されます。
しかし麻酔器では
低流量麻酔という方法が使われることがあります。
吸入麻酔薬(デスフルランなど)を節約するため
呼気の一部を再利用する方法です。
このとき
CO₂を除去するために
ソーダライムが回路に組み込まれています。
ソーダライムが劣化すると
CO₂が吸収されなくなり
吸気にCO₂が混ざるようになります。
その結果
Phase Iが0にならなくなります。
ソーダライム交換
あるいは高流量麻酔に切り替えることで
正常に戻ります。
Phase IIがなだらかになる
気道狭窄を疑います。
いわゆる
シャークフィン波形です。
原因としては
・喘息
・COPD
・気管支痙攣
・挿管チューブ閉塞
・チューブ屈曲
などがあります。
EtCO₂が低い
EtCO₂が低いときには
・過換気
・代謝低下
・心拍出量低下
・肺塞栓
などを考えます。
人工心肺やPCPSなど
補助循環が装着されたときも
EtCO₂は低下します。
人工心肺離脱時に
この値が上昇してくれば
心肺血流が戻ってきたサインになります。
Phase IIIにくびれ
人工呼吸中に
自発呼吸が出始めている状態です。
麻酔薬
特に筋弛緩薬の量を
確認する必要があります。
波形の変化に気づくこと
大事なのは
いつもの波形と違うことに気づくことです。
どう変わったのかを観察し
原因を考えます。
多いのは
突然波形が消える回路外れ。
Phase IIがなだらかになるのも
よく見かけます。
痰で詰まっていたり
チューブが折れていたりします。
整形外科のセメント手術で
ショックになり
EtCO₂が突然0近くになったのを
初めて見たときは
妙に印象に残っています。
まとめ
蘇生では
ABCが重要と言われます。
A Airway
B Breathing
C Circulation
Cは心電図や血圧でも分かります。
しかし
AとBの異常を最初に教えてくれるモニターは
カプノメーターです。
だから麻酔科医は
この小さな波形を
いつも気にしています。
カプノグラムは
数字だけでなく
波形を読むモニターです。
次の記事では
EtCO₂が突然下がるとき
何が起きているのかを解説します。