麻酔科医がよく見ているモニターに
**EtCO₂(呼気終末CO₂)**があります。
カプノメーター、あるいはカプノグラムとも呼ばれます。
挿管チューブの接続部付近から呼吸ガスをサンプリングして測定しています。
O₂と比較すると、CO₂は血液と気体の間を非常に移動しやすい気体です。
そのため肺胞内のCO₂分圧は、肺動脈血のCO₂分圧とほぼ等しくなります。
したがって呼気中のCO₂濃度は
肺胞でのCO₂濃度をよく反映しています。
呼気の終わりに測定されるCO₂が
**EtCO₂(呼気終末CO₂)**です。
一方、吸気中にはCO₂はほとんど含まれていないため、
モニター上では0に近い値になります。
その結果、呼吸に合わせて
0と40mmHg前後を行き来する波形が表示されます。
呼気時にCO₂がしっかり検出されているということは
肺から呼気が出ているということであり、
呼吸が成立していることの指標になります。
つまりこのモニターは
・気管挿管の確認
・回路外れの確認
・呼吸があるかどうか
といった
呼吸の有無を確認するモニター
として使われています。
実際、それが一番重要な役割でしょう。
麻酔導入時、患者さんに筋弛緩薬を投与して自発呼吸を止め、
しばらく麻酔科医がマスク換気を行います。
このとき、肺にきちんと空気を送れていないと
カプノメーターは反応しません。
挿管のトラブルとして比較的よく知られているのが
食道挿管です。
挿管チューブが気道ではなく食道に入ってしまう状態です。
この場合、胃が膨らんだりしぼんだりするだけで
肺には空気が送られません。
つまり窒息状態です。
このときもカプノメーターは反応しません。
また手術中、ふとしたことで
挿管チューブと麻酔器をつなぐ回路が外れることがあります。
この場合も呼吸が成立しないため
カプノメーターは反応しません。
呼吸回路が外れれば人工呼吸器のアラームは鳴りますが、
食道挿管では空気の出し入れ自体は可能なため
呼吸器アラームは鳴らないことがあります。
確実な呼吸の確認のためにカプノメーターは非常に有用です。
カプノメーターは
呼吸のモニター
と言ってよいでしょう。
しかし理解が進むと
このモニターは呼吸だけを見ているわけではないことに気づきます。
EtCO₂は
呼吸
循環
代謝
この三つの影響を受けています。
肺で取り込まれた酸素が血流に乗って
全身の細胞へ運ばれるように、
体の中で作られたCO₂は
血液によって肺に運ばれ、
呼吸によって体外へ排出されます。
つまりCO₂の流れは
代謝 → 循環 → 呼吸
です。
EtCO₂は
この最後の出口の数字なのです。
術中に突然EtCO₂が低下することがあります。
このとき
呼吸器の設定を変えていないのに
急に換気が良くなるということはありません。
また突然全身の代謝が低下することも
通常は考えにくいでしょう。
むしろ
循環が悪くなったのではないか
と考えるべきです。
循環が悪くなり、CO₂が肺まで運ばれてこなくなれば
呼気中のCO₂は減少します。
つまり
EtCO₂が低下する
のです。
整形外科でセメントを用いる手術の麻酔中、
突然EtCO₂が低下したことを経験しました。
35mmHg前後だった値が
突然低下し、波形がほとんど出なくなりました。
もちろん呼吸回路の外れなど
呼吸に問題がないかをまず確認しましたが、
そこは問題ありませんでした。
その後、モニターでは
徐脈化と血圧低下が出現しました。
セメント投与によるショックでした。
血圧は5分間隔の測定だったため、
ショックを最初に示したモニターは
カプノメーターでした。
心肺蘇生でもEtCO₂は重要な指標です。
心停止中、EtCO₂はほぼ0になります。
胸骨圧迫中もEtCO₂は低い値になります。
それでも胸骨圧迫がしっかり行われていれば
10mmHg前後の値が出ます。
ところが
胸骨圧迫を続けている最中に
EtCO₂が
突然30mmHg近くまで上昇する
ことがあります。
それは
自己心拍再開(ROSC)
のサインであることがあります。
血流が再開し、
CO₂が肺へ運ばれるようになるからです。
先ほど述べたセメント手術の症例でも
循環が回復したと同時に
EtCO₂は再び波形を描き始めました。
EtCO₂は
呼吸のモニターとして使われています。
しかしその数字の背景には
呼吸
循環
代謝
体全体の状態が反映されています。
たかがCO₂、されどCO₂です。