ICU。
血圧は保たれている。
ノルアドも入っている。
でも、
患者はなんとなく悪い。
- 尿が出ない
- CVPが高い
- 四肢が冷たい
- lactateが下がらない
- 肝機能が悪化していく
。
「血圧」はある。
でも、
“回っていない”。
ショックというと、
- 左心不全
- 心拍出量低下
- 血圧低下
をイメージしがち。
実際、教科書でもショックは心拍出量低下や血圧低下を中心に説明されることが多い。
しかし、
ショックは右心系が詰まることでも起こる。
心タンポナーデや緊張性気胸も、
「右心系が前へ流せなくなる」
という意味ではよく似た病態である。
そしてその代表格が、
右心不全。
※ショックの全体像については
「ショック4分類 ― “ショック”を flow で理解する」
右室は「肺を越えるポンプ」
右室の仕事は単純。
全身から戻ってきた血液を肺へ送ること。
全身から戻ってきた静脈血は、
右室
↓
肺
↓
左室
↓
全身
という流れで循環している。
右室はその入口を担当している。
渋滞は必ず手前にできる
高速道路を想像してみよう。
渋滞は事故現場そのものではなく、
その手前に長い車列ができる。
循環も同じ。
Flow のどこかで渋滞が起きれば、
血液は次へ進めなくなる。
左心不全では、
左室が渋滞ポイントになる。
その結果、
肺に大渋滞が発生する。
肺うっ血や肺水腫が起きるのはそのためだ。
一方、
右心不全では右室が渋滞ポイントになる。
すると、
上大静脈
下大静脈
肝静脈
腎静脈
に渋滞が広がる。
右心不全で起きていること
右室が肺へ送れない。
すると、
- CVP上昇
- 頸静脈怒張
- 肝うっ血
- 浮腫
- 腎うっ血
が起きる。
つまり、
👉 “出口を失った循環”
になる。
血液は身体に戻ってきている。
しかし、
前へ進めない。
なぜ血圧が下がるのか
ここは右心不全の本質。
右室が肺へ送れないと、
肺へ届く血液が減る。
すると、
左室へ戻ってくる血液も減る。
左室から見ると、
preload不足。
その結果、
心拍出量が低下する。
そしてショックになる。
つまり右心不全とは、
右室の病気であると同時に、
左室への供給不足でもある。
なぜ尿が出なくなるのか
血圧があれば尿は出る。
そう思われがち。
しかし現実は違う。
右心不全では、
血圧が保たれていることも多い。
そのため、
「腎血流はあるはず」
と思われやすい。
でも尿は出ない。
なぜか。
腎臓はろ過器である。
血液が、
腎動脈
↓
糸球体
↓
腎静脈
と通過できなければ尿は作れない。
血圧が保たれていれば、
入口である腎動脈側は問題ないように見える。
しかし、
CVPが高いということは、
腎静脈圧も高い。
つまり出口が詰まっている。
血液が腎臓を通過できない。
腎臓の flow が止まる。
腎臓がうっ血する。
そして尿が出なくなる。
だから右心不全では、
血圧があっても尿量が落ちる。
※詳しくは
「尿が出ない ― 腎臓は flow を見ている」
も参照してほしい。
CVPが高い=volume不足ではない
ここで危険なのが、
尿が出ない
↓
volume不足かもしれない
↓
輸液
という思考。
しかし右心不全では、
静脈側はすでにパンパンなことが多い。
そこへ輸液すると、
さらに静脈うっ血(venous congestion)が悪化する。
すると、
- 肝うっ血
- 腎うっ血
- 酸素化悪化
- 浮腫
が進行する。
循環は、
輸液すれば解決するわけではない。
※CVPについては
「CVPは信用できるのか ― “数字”ではなく flow を見る」
で詳しく解説している。
右室は afterload に弱い
左室は高い圧に耐えるため、
筋肉が厚く強い。
一方、
右室は違う。
本来、
低圧の肺循環へ送るためのポンプ。
高い圧に耐える構造にはなっていない。
だから、
- 肺塞栓
- 肺高血圧
- PEEP
- 低酸素
- ARDS
などで肺血管抵抗が上昇すると、
右室は急速に拡張し、
やがて前へ送れなくなる。
PEEPで突然悪くなる理由
PEEPを上げた瞬間、
- 血圧低下
- EtCO₂低下
- 尿量低下
が起きることがある。
肺が悪いからではない。
肺胞内圧が上昇すると、
肺血管抵抗が増加する。
その結果、
右室の afterload が急増する。
右室は肺へ送れなくなる。
つまり、
👉 “呼吸”が flow を止めている
のである。
※詳しくは
「PEEPで血圧が下がる理由 ― “呼吸”が flow を止めるとき」参照。
EtCO₂も下がる
右心不全では、
肺へ届く血流が減る。
すると、
肺へ運ばれる CO₂ も減る。
結果として、
EtCO₂は低下する。
換気はされている。
しかし灌流されていない。
つまり、
👉 “流れていない肺”
になる。
※EtCO₂については
「EtCO₂が突然下がったとき ― その瞬間に何を考えるか」
身体は最後までMAPを守ろうとする
患者のモニターで何を見て安心するだろうか。
多くの人は、
- 血圧
- 脈拍
- SpO₂
を見る。
血圧が安定している。
だから安心。
経過観察。
しかし、
身体は最後までMAPを守ろうとする。
交感神経を使い、
血管を収縮させ、
何とか血圧を維持する。
だから一見、
安定しているように見える。
でも実際には、
- 腎臓
- 肝臓
- 末梢循環
の flow は落ちている。
そして限界が来たとき、
突然ショックとして姿を現す。
右心不全とは
右心不全は、
単なる「心臓の病気」ではない。
👉 “肺を越えられない循環”
である。
そしてその結果、
👉 “出口を失った flow”
が全身をうっ血させる。
本当に見たいのはCVPではない。
本当に見たいのは血圧でもない。
尿量でもない。
EtCO₂でもない。
それらはすべて、
「今、本当に前へ流れているのか」
を教えてくれるサインに過ぎない。
だから右心不全では、
- 尿量
- EtCO₂
- CVP
- 四肢冷感
- lactate
- A line波形
を見る。
本当に見るべきなのは、
「今、Flow はあるのか?」
だから。
リンク先
ショック4分類
PEEPで血圧が下がる理由
EtCO₂が突然下がったとき
尿が出ない ― 腎臓は flow を見ている
CVPは信用できるのか
肺塞栓を見逃すな