Online よろず相談所

アラ50の医師が ゆるい説明しています

人工呼吸の考え方3 MV TV RR

ここまで酸素の話をしてました。
酸素化は生存のためにとても大事な物質なのです。そして、呼吸器管理では二酸化炭素の管理も同じぐらい大事です。
 
体内に取り込んだ酸素で、糖や脂肪を"燃焼"してエネルギーを作り、副産物として二酸化炭素(と水)ができます。
呼吸とは酸素を取り込むことと、この二酸化炭素を捨てることと、それにより酸塩基平衡を保つことです。酸塩基の話はまた今度です。
 
 
酸素化PEEPで書き忘れたのですが、酸素は水(血液)に溶けにくいです。
それでヘモグロビンという酸素運搬物質があったりとか、PEEPという圧力をかけて酸素化よくするなどがありました。
 
これに対して二酸化炭素は水に非常に溶けやすくて出てきやすい。
肺を空気が出入りするたびに一定量二酸化炭素が出ていきます。
なので、二酸化炭素の調節には、1分あたりどれくらいの量の空気が肺とガス交換するかという単位で管理します。
分時換気量:  MV; Minutes Volume 
といいます。
初期設定ではこれが体重x0.1 リットルとなることを目安にします。
60kgの人で1分間に6リットルの空気が肺に体を通り抜けることが理想となるわけです。
 
1分間に1回だけ6リットルの大きな深呼吸だけする人はいます?
いませんよね。そもそも肺活量って男性で3.5リットルくらいです。
そこで6リットルを10回程度にわけて、一回あたり600mlの空気を入れ替えれば呼吸が成立しますね。
 
ここででてきた1分間に10回の呼吸のことを
           呼吸回数: RR: Respiratory Rate
一回あたり600mlの空気のことを
          一回換気量: TV: Tidal Volume
 
といい、
          MV = TV x RR
 
となります。
 
 
血ガス中のpCO2の値を見ながら、これが40mmHgになるように。
TVとRRを調節して理想のMV にします。
 
特に肺の合併症がない人なら気道内圧の上限が20mmHgを超えないようにTVを設定して、RRで微調整しますが・・・
 
そんなのは主治医のさじ加減でやってもらいましょう。
人工呼吸器の設定は、患者さんに利益があって損害が少ない設定なら何でもいいんですから。
 
ここまでで呼吸器についている
FiO2
PEEP
MV
TV
RR
まで解説しました。最低限これ理解できていれば、呼吸器はだいぶ身近になるはず。
 
あとは何だ?
VC PC PS SIMV Spont?
 
 
 
 
 

人工呼吸の考え方2 PEEP

二酸化炭素編へつづくはずだったのに
PEEPの説明です。
 
世の中そんなもんです。
PEEPって何?という質問をいただいたので予定変更しました。
 
 
ピープピープいってるPEEPとは
Positive         陽圧
End               週末
Expiratory     呼気
Pressure        圧
のことで呼気終末期圧、あるいはそういう呼吸管理法のことですね。
 
地球上でモノが上から下へ落ちてくるのは
重力という”圧”が地球の中心方向にかかっているからです。
 
圧力の強いほうから弱いほうへ。
空気の世界も人間社会と一緒なんですよ。
 
そういうわけで、
息を吸うというのは、筋肉で横隔膜を引っ張り下げ、肺の中を陰圧にすることで、
体の外の大気圧 > 肺の中の気圧
となるので空気が取り込まれていきます。
 
息を吐くときは、横隔膜の張力を使って肺を押し込み
体の外の大気圧 < 肺の中の気圧
となるので、空気が吐き出されていきます。
 
この息を吐くときの、空気を全部だしきったときの
肺の中の気圧(気道内圧)をPEEPといいます。
 
 
PEEPを高い値に設定するとどうなるでしょう?
手術室の麻酔器だとPEEP 70mmHgまで出せる構造ですが
さすがにこれはヤバいです。
まず、空気の出口が蓋されている状態なので、息がはけないです。くるしいです。
肺にとって膨らむことはいいことですが、これはやりすぎ。
 
呼吸以外にも困ったことがおきます。血圧が下がりすぎるのです。
心臓から全身に送り出された血液が全身を回って、最終的に心臓に帰ってくることはご存知でしょう。そして、全身から血液が戻ってくるのも、戻ってくる場所である心臓の右心房が最も低圧だからです。中心静脈圧と言いますが、その圧はだいたい10mmHg前後です。ちなみに血圧は上が120mmHgくらい。下の血圧が70mmHgくらいが理想です。いつかこのネタを書く日もあるでしょう。
これに軌道内圧 70mmHgをかけたら、まわりまわって中心静脈にも高い圧がかかってしまうので、血液が全身から戻ってこれません。一番下にあるから水たまりができるのに、それが高い位置に移動したら水たまりにならないですよね。血液が戻ってこないと、心臓は元気でも送り出す血液が戻ってこないので、血圧は下がり・・・放置したら
 
”死ぬんDeath!”
 
ARDSの時はやむをえずPEEP 20mmHg以上かけることもありますが、それはそういう特殊な状況のみです。
ARDSガイドライン2016年によるとPEEP 30mmHg以下が望ましいそうです。
 
 
ちなみに手術室のPEEP70mmHg機能は患者さんを死なせるためじゃなくて別の用途があるから付いている構造です。
 
というわけで、かけすぎのPEEPは呼吸が吐き出せなくて苦しい・つらい・場合によっては”死ぬんDeath"であることは知っててください。余計なレポート書きたくないものです。
 
さて、かけすぎ危険のPEEPですが0だといいの?
という話。PEEP0mmHgというのは、口を全開にして息を吐いているような状態です。やってみてください。意外につらいでしょ。
肺というは柔らかい、すぐにしぼんでしまいがちな臓器で、気道内圧0mmHgだと、すぐしぼんでしまい、痰が絡みやすく、肺炎になりやすくなります。特に肺気腫の患者さんで顕著です。
 
肺気腫の患者さんは肺の末梢がもろいので、肺が虚脱(つぶれる)して無気肺になりやすいです。
また、肺の末端、肺胞より、その手前の細い気管支のほうがつぶれやすくなっているので、呼気で息を出そうとしたら、通路が先につぶれてしまい、十分空気が吐き出せなくて苦しいという症状がでます。
 
最低限の圧力をかけて、空気吐ききっても細気管支や肺胞がつぶれないだけの圧力はかけ続けておこう、というのがPEEPです。
ヘビースモーカーの肺気腫のおじいさんの”口すぼめ呼吸”も口を小さく開けPEEPを維持したままゆっくり空気を吐き出すという、体が自然と覚えた呼吸法です。口すぼめで画像検索してみてください。
 
PEEPは5mmHg前後をかけるのが一般的で、その理由は、健康人の呼吸時にだいたい5mmHgのPEEPがかかっているからです。たいした抵抗感ないし、無気肺にもなりにくい。
肺水腫とかの病態、ARDS等に悪化するときはある程度強めのPEEPをかけないと肺と命のピンチ。
人工呼吸している患者さんの酸素化が悪い時はPEEPを高く設定したほうがいいのは前に書いた通りです。
 
 
次回
二酸化炭素編へ続く
 
かもしれない。
 
 
 

人工呼吸の考え方 1 FiO2

生きていくためには呼吸が必要です。
全身麻酔のときや呼吸が不十分な状態の時は人工呼吸が必要です。
 
人工呼吸の設定は医者の指示で行うもので、それぞれの先生に設定のこだわりがあるところです。それでも基本というか、大雑把な流れというか、トラブル起きにくい呼吸器の設定、流れについて書きます。
主治医の先生の方針を優先しつつ、参考にしてください。
 
 
初期設定
酸素濃度(FiO2) 1.0
一回換気量(Tidal Volume) 男性 500ml 女性400ml
呼吸回数 10回
PEEP 5mmHg
 
とりあえずこの乱暴な初期設定で呼吸は成り立つと思います。
一回換気量の初期設定を体重x10mlにすることもあります。
これで血液ガスをとりながら微調整していくものです。
 
FiO2: Fraction of Inspiratory Oxygen :酸素吸入濃度 
患者さんが取り込む酸素の濃度です。
酸素100%の時、FiO2 1.0
酸素  50%の時、FiO2 0.5
のように呼ぶのが一般的です。
 
カニューレとかマスクは通常純酸素を投与するので、患者さんも純酸素を呼吸しているように見えますが、鼻カニューレもマスクも、患者さんの鼻元、口元で外気と混合されるため濃度は下がります。
カニューレ3Lの時 FiO2 0.32 
マスク 5Lの時はFiO2 0.4 
と言われています。
 
患者さんが吸う空気の酸素濃度をもっと高くしたかったら、巻き込む外気も酸素にしてしまえばいい、というわけでリザーバーマスクという方法もあります。
 
 
一方、挿管された患者さんは、チューブが直接人工呼吸器につながるため、人工呼吸器で設定した通りの濃度の空気が流れます。
長期に渡る過剰な酸素化は酸素中毒や肺の合併症を引き起こすので、酸素は必要最低限にするべきです。
SpO2も100%である必要は全くありません。下限は主治医と相談してください。個人的に多くの症例で95%以上あればいいとは思ってます。
 
 
人工呼吸器のときのFiO2はなるべく0.6以下。できれば0.5程度にするべきです。
無理に0.5より低くする必要はないと、どこかの教科書でよんだけど忘れました。
 
FiO2を下げたままで酸素化を良くするにはPEEPをかけます。
挿管された状態というのは、口全開で呼吸しているようなもので、それはそれで疲れるものです。挿管されずともPEEPは4-5mmHgかかっていると言われており、その設定にするべきです。PEEP 10mmHgくらいまでは必要に応じてかけます。
ARDSなどの重症肺炎だと、やむなくPEEP 20mmHgかけたこともあります。
 
 
わかんね
ってところを質問してくださると後日もうちょっと詳しく書きます。
 
 
 
二酸化炭素の話へつづく

納豆と心臓病

納豆。
美味しいですよね。
 
ああいう独特の匂いのある食べ物って、子供の時から慣れ親しんでいるから美味しいんでしょうね。
外国人だとあの匂いがダメってなりますし、逆にヨーロッパの超熟成(臭い)チーズとか、中国のこれまた臭い腐乳、沖縄の豆腐ようとか、なれない私は結構無理です。おいしいって聞きますけどね。
 
そんな納豆が低カロリーで栄養満点。健康効果やダイエット効果とかいろいろ言われています。
しかしこの相談所は納豆の効果を語るブログではありません。
 
高齢者の方で
"納豆は心臓に悪い"
とおっしゃっているのをよく耳にします。
 
心臓病の知人が納豆禁止になっているのをみて、納豆は心臓に悪いと理解されているようです。
 
これは正しくありません。
 
納豆が心臓に悪いのではありません。
心房細動
弁置換術後(特に機械弁)
等の患者さんにワーファリンという薬が処方されます。このワーファリンという薬が、納豆やクロレラなどビタミンKを多く含む食べ物を食べることで無効化されるため、禁止されるのです。
 
ワーファリンを処方されていない人は納豆好きなだけ食べて大丈夫です。
ご自身がどの病気か自信がない人はちゃんと主治医に確認してください。
弁置換術後でない人でワーファリン飲んでいる人は、もしかしたら納豆禁止が解除できる可能性があります。ワーファリンにくらべたらちょっとお高い薬(ワーファリンが安すぎ)ですが、それに変えてもらうという方法です。主治医の先生に相談してみてください。
 
 
 
 
 

高血圧と塩分

心臓の手術を受けたことのある、ちょっと心不全気味のお爺さん。
これまでお婆さんがきっちりごはん作っていてくれたけど、お婆さんしばらく入院になってしまった。
 
料理なんてしたことない昭和男。さぁ大変。お爺さん。
しょうがないからコンビニいって試しにカップラーメン食べてみたら
うぉぉ美味しいぃぃぃぃ。
久しぶりなのもあってとってもうまい。
スープも飲んじゃう!
 
というわけで3食カップラーメンを始めたら
5日ほどで呼吸が苦しくなり、うっ血性心不全で救急車でいらっしゃいました。
 
 
入院して1日塩分6gの塩分制限食生活始めたら数日ですぐに元気になりました。
 
塩分は怖いね!
 
と学んだお爺さん。
退院後はしばらくお婆さんの低塩食で元気に過ごしていたけど、やはり味気ない食事にイライラし、隠れてコンビニ弁当食べるようになったそうです。この数ヶ月調子が悪くなっていて、主治医(私ですが)に利尿剤とか薬増やされていました。
 
 
もう一回入院していろいろ治療や検索する予定組んでたところ、お爺さんがぎっくり腰になって痛くて動けないからとキャンセル。しばらくして外来きたら、腰痛はあるものの、むくみは減り心臓は元気になってました。、
動けなくてコンビニに買い物いけなくなり、やむなくお婆さんの愛情減塩手料理だけを食べ始めたら最近調子いいそうです。
 
 
 
塩分は怖いね!
 
ちなみに厚労省が推奨している日本人の1日塩分摂取量は病院食と同じ6g。
 
味気ないと言われるあの食事が健康の秘訣らしいですよ。
実際高血圧で薬が効かない人、糖尿病の人で入院して病院食たべるだけで高血圧よくなるのはしばしば見かけます。
 
ちなみに超有名カップヌードルに含まれる塩分は1食5.1gだそうで、1食で1日分の塩が取れます。
 
 
本人の許可を頂いてネタにしてます。
 
 
 

不整脈と言われたら

医者に不整脈っていわれた人いませんか?
そして不整脈って言われたけど、医者はなんにもしてくれなくって
なんか不安になっちゃってる人いませんか?
そもそも不整脈ってなんだと思います?


心臓は全身に血液を回すポンプです。
筋肉でできた袋のようになっています。
筋肉が収縮して袋が握りつぶされる感じで血液が動脈へ送り出されて行きます。
筋肉が収縮するタイミングは電気でコントロールしています。
筋肉に電気が伝わると筋肉袋である心臓が収縮して中の血液が送り出されるのです。


心臓の中にある電気回路を刺激伝導系と言います。刺激伝導系は上から下へと順番に伝わるようにできてます。


会社というものは一般に
社長が命令すると、
まず運営部の人がささっと仕事して、
下働きな人たちに本命な仕事が回ってくる
モノじゃないですか?


心臓も同様に
洞結節が命令して
上室(心房)が仕事して
心室が最後に力仕事する
そういうトップダウンな構造になってます。


そして、この
洞結節→心房→心室
のように電気が伝わって行く状態を
洞(社長)のリズム(調律)で動いているから洞調律とか、整脈とか呼ばれます。


トップダウンな刺激伝導でないものを、整脈じゃない=不整脈といいます。

 


なので不整脈はピンキリです。
社長が頑張りすぎてオーバーワークなのが頻脈
逆に遅すぎるて仕事不十分なのが徐脈
上から下までの連絡が途中で途絶えているのがブロック
心房が、心室がついてこれないほどの速さで仕事しているのが心房粗動
心房が、勝手に動きすぎて役に立ってないばかりか、トラブルのモトを作り出しうるのが心房細動
トップダウンの1ルートしかないはずなのに、フライングで下の部屋へ情報漏れているwpw症候群
心室で命令関係なく勝手に仕事する期外収縮
心室でもはや一丸となっては働けずカオスになってる心室細動


心臓って会社と一緒ですね。大事なのは下働きな人たちですよ。社長も上室も働いてなくても生きていられるんですから。

 


心臓の電気的トラブルを全て不整脈と呼ぶので、ほっといていいものから、やばいのまで色々です。ほっといていいものが歳を取ったら悪いものに変わるというものではありません。

 


ほっといていいものは本当にほっといていいです。心臓なんて所詮血液を回せてればいいんです。
よろしくないのは心房細動、心房粗動、心室細動などですが、医者がこれをみてほっとくはずはありません。喜んで治療しにきます。


なので医者に不整脈と言われたけどほっとかれたら、ほっといていい不整脈だ、ラッキー
くらいに考えた方がいいですよ。