集中治療室で働く若手のスタッフから血ガスの読み方について相談をいただきました。
一般の方にはなじまない内容です。スルーでお願いします。
血ガスというのは、血液検査の一つです。主に動脈から採血し、その血液のpHやO2濃度、CO2濃度、電解質などを調べる検査です。
外来や病棟ではあまり行われませんが手術室や集中治療室では馴染みの検査機器です。
その患者さんがいまは大丈夫なのか?呼吸状態は安定しているのか?その他のまずい状態はあるか?
をしらべる検査です。
血ガスの正しい読み方、深い解釈などは本を読んで勉強してください。
かつて自分もそういった本で勉強してきました。
今回は集中治療室歴20年の私が普段チェックしている内容について書いておきます。
これが絶対正解なんて言うつもりはないですが、読み間違えでトラブルにもなっていません。参考にしてみてください。
<血ガスでわかること>
血ガスの項目は、測定機器でまちまちですが
pH
PCO2
PO2
HCO3-
BE
SaO2
Na+
K+
Cl-
Anion Gap
Glu
Cac
Lac
こんなところでしょうか。
血ガスの正しい読み方なんて存在しません。今あるデータをどう解釈するか?です
患者さんが元気に回復してくれればいいのです。
一例として私がみている順番に書いてみます。
多くの血ガス測定器で一番最初にでてくるとおもいます。
だから、ここからみてます。
pHのこと、覚えていますか?高校化学で出てきました。液体が酸性なのかアルカリ性なのかの指標で
強酸性がpH 1
強アルカリ性がpH 14
どちらでもない中性が pH 7
なんて思い出しません?
アルカリ=塩基ですよ。
血液ガスではかるpHは当然、血液の酸塩基のレベルを示しています。
pH=7.4 が正常で範囲は7.35-7.45とされています。正常だとやや弱アルカリ性な中性です。
この正常範囲でホルモンなどが機能的に活動できます。
このpH 7.35-7.45を正常な基準値として
酸性に傾くとpH<7.3 でアシドーシス
アルカリ性に傾くと pH>7.5でアルカローシス
といいます。
アルカローシスの状態も良いわけではないですが、過剰に慌てる必要はないです。
アシドーシスの状態が続くのはヤバいです。
特に重度のアシドーシスを放置したら、いろんな調節物質が機能しなくなるので高率で死ぬんDeath。
pHはつまり
その患者さんの状態が安定しているのか?ヤバい状態なのか?
を見極める状態です。
生体はpH 7.4くらいで安定しています。
pHがこれより低い時はアシドーシス
pHがこれより高い時はアルカローシスと言います。
pHが7.3以下というのは、体になにかヤバいことがおきているということです。
いまヤバいってことがわかったら、治療したいじゃないですか。
どうやって治療しますか?
治療方針決めるためには、いま異常が起きている理由を探さなければなりません。
原因により対処法が違うので、いまこうなっている原因を知る必要があるのです。
<酸塩基平衡>
そもそもなんで酸性・アルカリ性になるのか?ですが
細胞というのは生きていくために細胞外へ酸性因子であるH+を放出しつづける必要があるのです。食べ物が腐ると酸っぱくなるのは細菌が活動しH+を放出しているからです。そのH+は血液循環で回収されて、腎臓でそのまま排出されたり、呼吸という形で体外に排出されたりします。
H+ + HCO3- ⇄ H2CO3 ⇄ H2O + CO2
覚えてますか? 試験のヤマでしたよね。いやでしょうけどもうちょっと付き合ってください。
この平衡の式で、血液内では上の5つの物質が一定のバランスになるように存在しています。H+が増えるとH+とHCO3-が結合して右の物質にかわり、水と二酸化炭素になります。
二酸化炭素の量は呼吸量できまります。
この平衡があるおかげで、私たちは呼吸することや尿をつくることで酸塩基平衡のバランスをとりpHを維持できるのです。
呼吸が止まったらすぐにアシドーシスになります。
腎不全で尿が出ない人もアシドーシスになります。
<呼吸性?代謝性?>
pHの管理は呼吸と腎臓で行っています。
そこでそこでアシドーシス・アルカローシスは
呼吸が原因でおこる
呼吸性アシドーシス
呼吸性アルカローシス
腎臓を含めた呼吸以外でおきる
代謝性アシドーシス
代謝性アルカローシス
の4種類に分類されるのです。
今のアシドーシスはどこから?
原因調べたくなってきたでしょ?
<pCO2>
そこで次に見るべきものはpCO2です。
血液にとけている二酸化炭素の分圧の値です。
35-45くらいが正常でしょうか? 自発呼吸している人はほぼpCO2 40と言われています。
呼吸が過剰ならpCO2は減ります。
呼吸が少なければpCO2は増えます。
このときpCO2 > 50 とかだったら、呼吸が足りません。呼吸不全です。
(50mmHgという基準があるわけではありません。COPDの人だとこれが標準だったりします。)
呼吸性アシドーシスである可能性が高いです。
人工呼吸 ・ 補助呼吸を検討するべきです。
すでに人工呼吸をしている状態でpCO2 > 50は呼吸が不十分です。
分時換気量を増やすことを検討しましょう。
逆にpCO2<30のときは過換気気味なので、逆に分時換気量を減らしてみてはいかがでしょう。
CO2が正常値なのにアシドーシスなときは?
<HCO3->
HCO3は重炭酸イオンです。
H+ + HCO3- ⇄ H2CO3 ⇄ H2O + CO2
再び式がでてきました。
重炭酸はH+とくっつくことでH+を水にかえます。水に変われば中性です。
突発的にH+が増えても急にアシドーシスになって破綻しないのは、重炭酸がいるからです。
pHの変化はそれほど生体にはダメージをあたえるので、変化の衝撃を抑えるため、緩衝剤として存在しています。
22 < HCO3- < 26
正常値は24 ± 2。これが少ないときは、H+が多くて緩衝のためにおおく消費されたんだ・・・と理解してください。
つまり、見た目pHは正常でも、それは緩衝剤がダメージ抑えていてくれているわけで放置してたら破綻する可能性はあるということです。これが異常に低いときは隠れアシドーシスの原因をさがしましょう。ここで呼吸のCO2が問題なければ代謝性なんだな・・・と想像できます。
腎不全ならば透析を考えていいとおもいます。
多くの場合循環血液量の減少で抹消循環不全がおきていることがおおいです。
BEというのはBase Excessといい、
緩衝剤が適正値からどれだけはなれているか?の指標です。
‐3 < BE < +3
正常値は0± 3
がだいたい正常でーに進めば代謝性アシドーシスです。
HCO3-かBEかどちらか好きなほうで代謝性アシドーシスを見抜ければよいでしょう。
長くなるのでその2に続く